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「カーペンターズ以外の音楽は駄目だ。」

高校の頃、専門教科の先生が余った授業時間を使って「英語」についての講釈をたれた。
「英語を学びたければ音楽を聴くのが早い。そして自分はカーペンターズこそ最高の英語教材だと思う」という内容だった。そして彼は次のように続けた。
「そもそもカーペンターズ以外の音楽は駄目だ。全然心が伝わってこないし、意味のない英語を並べただけなのだから」と。

カレンの発音はとてもキレイだし聞き取りもしやすいからから、カーペンターズから英語を学ぶ、というのには全面的に賛成だが、後半部分を聞いてその賛成した部分でさえも否定したい気分になった。
ロックミュージックに憧れ、その虜になっていた当時の自分からしたら信じられない発言だったのだ。
え、え、なんて?意味のない英語?は?

僕はビートルズの「俺はセイウチだ」っていうわけの分からない歌からも「へぇ、セイウチって英語でウォルラスって言うんだ」っていう学びを得たし、オアシスからは「ホワットエヴァー」という口に出しただけでなんだか幸せになるような英単語を学んだ。
そうやってスラング含むような音楽も聴いたおかげで、なんとなくのリスニングは出来るようになった。いやほんとになんとなくだけどさ。

未来ある高校生からそんな無限大の選択肢を奪うような発言がどうして出来たのだろうと未だに謎でしか無い。腹立たしくもある。

そういった若さゆえの反骨精神から、カーペンターズを聴くことをなんとなく避けていた。ずっと。
カーペンターズを聴くことであの先生のような凝り固まった思考になる気がしたのだ。

嫌な大人にはなりたくないとずっと考えていた。
どこまでも柔軟で優しくて話のわかる大人になるのが夢だったのだ。

しかしそんなほとぼりも冷めたのか、ふとカーペンターズを聴きたいと思った。あのときの高校の教室から遠く離れた時間に立ってやっと、そう思えた。
そうしてイヤホンから流れ出した50年近く昔の音楽は、信じられないくらい新鮮で、楽しくて、美しかった。カーペンターズの素晴らしさを今更僕なんかが語ることは無駄でしかないけど、とにかく、良かった。すごい音楽だなって思った。

狭い頭の中で雑に練られた「こうだと決めつけられた乱暴な言葉」は、ときに誰かの心に深く刺さってなかなか抜けない。

僕は先生でも、まだまだ大人でもないけれど(思い描いたような、という意味で)、言葉は丁寧に選ぶ必要があるな、と思ったのだった。十数年経ってやっと抜くことが出来た言葉に出会ったのだから。

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