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サムネの写真の状況がマジで謎すぎるから小説にして整合性持たせてみた。

「ハッピーバースデー!おめでとうジョン!」
 室内には低音がイヤらしく効いたEDMが流れていて、そこに自分が立っていることを曖昧にさせるほどに床板が小刻みに振動していた。
今日の主役であるジョンは満面の笑みを携えて来訪者たちを歓迎している。胸元に赤い飾りがついた白シャツは、爽やかな彼の顔にとても似合っている。
 テーブルに並べられたそこまで高価ではないだろうシャンパンを口に運ぶと、気の抜けた炭酸の微細な泡が舌にまとわりついた。
それに少しの嫌悪感を抱いて、足早にバルコニーに向かう。ビーチハウス風のインテリアが施された会場(叔父さんの別荘なのだそうだ)で、バルコニーにもその趣味はいかんなく反映されている。まるでカリフォルニアだ。偶然とは思えないくらいセンスよく錆びついたブリキの看板には”ブロードウェイ”と表記されている。
 私は外に出、新鮮な空気を肺に取り込む。お酒と煙草と香水の匂いから開放されたかったのだ。
室内では相変わらず歪んだEDMと人々の乱雑な会話が奇妙なくらいにうまく混ざり合って、独特の騒音を生み出している。私はバルコニーの手すりに両肘をつき、はあ、とため息をつく。
そのため息が虚空に降りていったのを目で追うかのように、ふと下を見やる。すると、ここから階段を数段降りたところに、近くの雑木林に向かう道があった。
 あまり深く考えずに、私は階段を降りてその道を辿る。背中で自分を呼ぶ声が聞こえた気がするけれど、それよりも春の陽光に照らされた木々を眺めたいと思ったのだ。
 亀が歩くようなスピードで雑木林を無心で歩いていると、目の前にレールが見えた。どうやら廃線らしい。雑草が好き放題に生えていて、とても列車が走っているようには見えない。なんとなく、レールが太陽が傾いた方に伸びている方へと歩みを進める。
 ジョンはきっと私の気持ちには気づいていないだろう。例えば今日という日を、本当は私とふたりだけで祝いたかったこと。美味しい料理に舌鼓を打ちながら、何気ない冗談を言い合って笑い合いたかったこと。あんな酷いEDMじゃなく、静かなジャズピアノにゆったり耳を傾けたかったこと。
 きっと彼は、これからも――――

「サンサ!」
 聞き覚えのある声がして、慌てて声のした方に顔を向ける。
そこには焦りの表情を浮かべたジョンが立っていた。右手にアコースティックギターを持っている。
「今から、弾き語りなんてのをするんだ。でもサンサがいないから慌てて探しに来たんだよ。こっちに向かうのが見えたから。」
なるべく明るい声が出るようにと願いながら私は返す。
「そうなんだ。ちょっと人混みに疲れちゃって。でも、ギターを持ったまま探しに来るなんて、余程慌ててたのね。」
ジョンはそこで初めて気がついたように自分の右手を見る。
「…本当だ。全然気づかなかった。」
「バカみたい。」
ジョンは照れくさそうに笑って、
「じゃあ、ここで、君のためだけに歌うよ。せっかくギターもあることだし」
なにそれ、と思わず吹き出してしまったけれど、内心はとても嬉しい。
「いいよ、聴かせて」
彼は笑顔で頷くと、レールの上に腰を下ろしてギターを握る。私はその向かいに腰を下ろして彼の所作を眺めている。ジョンは少しだけチューニングと音出しをし、震えるような声で歌を歌った。
曲目は、ジェイソン・ムラーズの「Love Someone」だった。

「すき」
聴き終わったあと、思わず声に出していた。自分でも驚いた。眩しかったら目を細めるように、熱いものに触れると手を引っ込めるように、脳の処理をしない、反射のようなスピードで発した言葉だった。言ったあとで、頬が赤くなるのがわかる。喉が詰まったようで苦しくて、深く息を吸う。
「僕もだよ、サンサ。」
彼が発した言葉の意味がよく分からなくて、目が泳ぐ。
「なんて、言ったの、いま」
「サンサ。愛してる。ずっと君だけを見てたよ」
また”反射”で彼の胸へと飛び込んだ。
「信じられない。ずっと私だけかと思っていたの。ねぇ、ほんとだよ。本当にすきだよ」
「うん、知ってるよ。僕だってそうだったんだよ」

すっかり夕陽の色に染まりだしたその場所が輝いて見えたのは、きっと太陽の光のせいだけでは決してなかったと思う。
私達はいま、光を反射しあって煌めいているのだ。

「ハッピーバースデー。おめでとう、ジョン。」

こんな駄文をいつも読んでくださり、ほんとうにありがとうございます…! ご支援していただいた貴重なお金は、音源制作などの制作活動に必要な機材の購入費に充てたり、様々な知識を深めるためのものに使用させて頂きたいと考えています、よ!