メモ:因果関係について

 薬が疾病状態に影響を与える原因だと考えがちなのは、それが因果メカニズムを構成する要素のうち、最大の関心ごとだからである。実際には薬剤の厳密な効能だけでなく、プラセボ効果や健康関連行動などによる影響など多様な因子が疾病状態に関わっている。通常、薬を飲んで、症状が緩和したというのは、服薬行為が最大の関心ごとであるがゆえに、薬が唯一の原因だと思いがちなのだ。この場合、自然経過という要素が注目されることは、決して多くない。

 ある薬剤が転倒リスクを増加させると言った場合、転倒リスク増加に寄与している唯一の原因が薬にあるわけではない。一般に因果メカニズムは多数の原因構成要素が関与している。履いていた靴、路面状況、潜在的な歩行障害、姿勢制御不良状態、風の強さ、視力、平衡感覚など、様々な原因構成要素が全てそろった時に転倒が発生するのである。

 疾患の発生について、原因構成要素の中で、他の要素に比べてより重要な役割を果たしているものがあると考えられる。それは言い換えれば因果効果の強さともいえる。

 例えば、喫煙は肺がんを起こす原因構成要素の中でより重要な役割を果たしており、強い原因という事ができる。そして、ある要因が引き起こす疾患の集団における負荷割合は、他の疾患原因の分布が変化すれば、集団ごと、時代ごとにことなる。

 人口集団のほとんどが喫煙しなくなったとしたら、喫煙は肺がんの強い原因にはなり得ないだろう。強い原因とは、大多数の症例に関与している原因要素のことを指す。つまり、原因の強さは生物学的原因と同等ではないことに注意が必要である。

 慢性疾患に対する予防的な薬が将来予後に与える原因の強さについて考えたとき、ランダム化比較試験が示しているのは、プラセボとほとんど変わらないか、ごくわずかに上回る程度である。

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