謎のスルピリド

スルピリドは本邦で比較的良く処方される薬剤の一つであるが、その多くの処方が潜在的に適切ではない可能性がある。日本の在宅現場において、4243人の在宅高齢者を対象とした横断調査では、潜在的に不適切な仕方で使用されている薬剤の第3位(2003 Beers Criteria 日本版によるスクリーニングで存在割合10.7%)にスルピリド(ドグマチール®他)が入っている。
Onda M,et al. BMJ Open.2015;5(8):e007581. PMID:26260347

統合失調症に対するスルピリドには若干の効果が期待できるかもしれず、処方されている全てのスルピリドが必ずしも不適切ということではないが、なんとなく食欲が無いからとか、活気が無いから、というような状況で漫然投与されているケースは多い印象がある。処方意図が不明な例は実際、多いのでは無いかと思われる。
Lai EC.et.al.Schizophr Bull. 2013 May;39(3):673-83.PMID: 2231548

『第1回レセプト情報・特定健診等情報データベースNDBオープンデータ』を見てみると、我が国におけるスルピリドの使用量はフロモックスやベイスンOD錠0.3mgよりも多く、決して少なくないことが分かる。(デパスは突出している…。)

スルピリドには錐体外路症状などのリスクもあることは確かであるが、なんとなく副作用も少なさそうな、比較的安全性が高いような認識もあるかもしれない。スルピリドの有害事象があまりクローズアップされないのは、現在までに行われている臨床試験が小規模であり、有害イベントの検出力が不足していることが理由に挙げられる。

これまでに報告されているシステマティックレビューを見ても“Cochrane Database Syst Rev. 2009 Apr 15;(2):CD007811”では2研究(解析対象113人)、“Cochrane Database Syst Rev. 2000;(2):CD001162.”では18研究が組み入れられているが『Studies are generally small and of poor quality』と記載があり、妥当な研究デザインで検討された研究はかなり限定的であると考えられる。

従ってスルピリドの有害事象は一般的には過小評価されやすいのではないだろうか。しかし、実際のところ、抗精神病薬と比較してもその有害事象リスクは遜色ないことが示されている。特に錐体外路症、高プロラクチン血症の有害事象は突出している。
Lai EC.et.al.PLoS One. 2014 Feb 27;9(2):e89795 PMID: 24587038PMID: 24587038

統合失調症に用いているケースでは漸減が推奨されているので、やはり投与中止には漸減・中止とするのが良いのだろうか。いずれにせよ、処方意図不明なスルピリドは、できる限り漫然投与を避けたい印象はある。


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