患者の真のアウトカムを想像せよ。

 「アウトカム」とは日本語で「結果」、あるいは「成果」などを表す言葉であるが、医療の文脈では検査値の改善度や合併症の発生率、死亡率など、治療や予防による臨床上の成り行きを指す。

 例えば糖尿病患者に対して、血糖降下薬を投与した場合、血糖値が下がるというのも一つのアウトカムである。しかし、糖尿病の薬物治療において、最終的に目指すべきところは健康寿命の延伸であることに異論は少ないはずだ。あるいは、健康に不安を感じることなく幸せな時間を過ごすことができる、ということが医療の目指すべき目標であろう。少なくとも、透析への移行であるとか、網膜症や神経障害などの合併症の発症率を低下させることができなければ糖尿病治療の臨床的意義は小さい。

 一般的に患者自身の生命や生活に直結するアウトカムを「真のアウトカム」と呼ぶ。一方で血糖値やコレステロール値、炎症メディエーター等の変化は、真のアウトカムに対する影響を予測する指標であり「代用のアウトカム」と呼ばれる。

 もちろん患者にとっての真のアウトカムが、必ずしも長生きすることではないかもしれないし、血糖値が下がることで安心して生きていけるということもあるだろう。ただ、少なくとも「真」と「代用」という2つのアウトカムを常に意識しながら薬の効果を考えていく必要がある。なぜなら、代用のアウトカムの改善が必ずしも真のアウトカムを改善するわけではないという事実は枚挙にいとまがないからだ。罹病期間の長い2型糖尿病患者において、厳格な血糖コントロールは心血管疾患リスクを低下させないどころか、死亡リスクを増加させる可能性まである(N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559.)。

 血糖値が下がっても早死にしてしまう治療が、患者にとって真に幸せをもたらすものなのだろうか? 代用のアウトカムの改善のみに注目することは、薬の効果の大切な側面を見失っていると言っても過言ではない。

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