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第30回 リーゼに天啓 

1938年のクリスマス前。リーゼ・マイトナーはストックホルム郊外の海に近い観光地・クングエルブにいました。知人の宿屋の女主人が独りのクリスマスは寂しかろうと呼んでくれたのです。
クリスマスの前々日の夜にはリーゼの甥のオットー・ロベルト・フリッシュも宿を訪れました。これも女主人が呼んだのでした。

翌朝、食事の時、リーゼはベルリンのオットー・ハーンから来た手紙を読んでいました。そしてちょうど来たフリッシュに見せました。
「これ、どういう事かしら。中性子をウランに放射すると、それより軽いバリウムができるって。それにまだ別の軽い元素もあるみたいだし」
二人は朝食後、部屋を出て、雪の散歩道に出ました。リーゼは散歩しながら考えるのが常で、母国オーストリアのチロルでは16キロも歩く事もありました。それが60歳になっても精力的なリーゼの若さの秘訣でした。
「僕は板を履くね」フリッシュは持ってきていたクロスカントリー用のスキーを履きました。そして二人は話し合いました。

「叔母さん、ウランがいくつかに分かれるなんて、まるで植物の細胞分裂みたいだね」
そこでリーゼに天啓が走りました。「そうだわ、ロベルト。ひょっとしたらウランが核分裂起こしたんじゃない?」続けてリーゼは言いました。
「彼らはそこまで見抜いていなかったのかもしれないわ。教えてあげましょう。そしてエネルギーが解放されて、そこで中性子がまた出て、別の原子にぶつかって・・・それが連鎖すると莫大なエネルギーが出るわ!」
リーゼはちらと一抹の不安を覚えましたが、とにかく概算する場所を探して大きな丸太が横たわっているのを見つけました。(続く)

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