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Unus Non Sufficit Orbis.

 またこの季節がやってきた。ショーウィンドウに反射しているのは、色の薄い唇を、寒さを耐えるようにくっと結んだ男。彼はきっと一人で冬を越すに違いない。

 僕にもかつて、一緒に過ごせる人がいた。今でもコンビニへ入ると、彼女の持ってきてくれた肉まんのことが目に浮かぶ。僕らはあの山小屋で、一生を終える覚悟だった。けれど、ほんの些細なことをきっかけに、彼女は雪解けを待たずにどこかへ去ってしまった。
 いや、正確には僕がほんの少し、小屋から出て過ごしている間に、彼女もどこかへ行ったのだ。
 結局、社会から飛び出したつもりでも、一人きりでは過ごせないんだ。その不甲斐なさを見つめたくはなかったからか、何も無かったかのように僕は働き始めた。
 夏の暑さも記憶にないくらい、粛々と日々を送り、不満のひとつもあった日には、目を背けるように眠ってしまう。

 シュウスイちゃんは、僕よりもタフだったから、きっと幸せに過ごせているはずだ。
 ずっとそう思い込んでいた。けど、いざ一年がたってみると、低い気温が肌身をいじめるように、じくじくと不安がつのってゆく。
 だけど……もう一度会ったとしても、僕には何も言えない。

「にへへ、久しぶり、だね」
 そう思っていたのに、彼女はあの同じコートを着て、再び僕の前に姿を現わした。
「シュウスイちゃん……髪、伸びたね」
「うん。君も、少し大人びたっていうか」
「老けただろ」
「ううん、頑張ったんだね」
「寒いな。そうだ……肉まんでいいか?」

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