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炊飯器の技術史

──あなたはパン派? ご飯派?

新潟県産コシヒカリのライスパック(越後製菓)

パン派の人は、パンをパン屋さんで買うことが多いが、
ご飯派の人は、ライスパックを買う人は少ないと思う。
ご飯は自分で炊く。

ホームベーカリーは2万円前後だと思う。
電気炊飯器は、売れ筋の3万円前後の物から10万円以上の物まである。

昔、ご飯は竈で炊いたが、おいしく炊くための

はじめチョロチョロ(浸し炊き、前炊き。吸水)
中パッパ(吹き上げ)
ブツブツ言う頃、火を引いて(沸騰維持)
ひと握りの藁燃やし(追い焚き)
赤子泣くとも蓋取るな(置き火むらし)

という温度調節が難しかったし、火事も怖いから、主婦は、朝5時に起き、1日3時間は竈から離れられなかった。(「竈(かまど)」は宮城県塩竈市の市民や塩竈神社の関係者以外は読み書き出来る人が少なかったが、『鬼滅の刃』のヒットで、子供でも読めるようにはなった。)

竈炊き

毎日の炊飯は、主婦にとっては、重労働だった。
火加減を間違えれば、姑から、
「女房失格」
と罵られた。

1.世界初の「自動式電気釜」


 そんな、重労働から主婦を解放しようと、東芝の家電部門の山田正吾は、東京都大田区の協力会社「光伸社」(サンコーシヤ(旧・山光社)に吸収合併)を営んでいた三並義忠に世界初の自動電気炊飯器「電気釜」の開発を打診した。自動電気炊飯器は、東芝を含め、どの会社も開発に失敗した商品である。しかも研究開発費は東芝から1円も出ないという。
 三並義忠が実際に試作してみると、確かに、自動炊飯は上手くいかなかった。「はじめチョロチョロ・・・」という火加減が難しいのである。妻・風美子は、1日に10時間以上、20回は米炊きをし、実験回数は1000回に及んだ。さらに米が尽きてしまうと、自宅と工場を担保に借金をし、社員に農家を回ってもらい、1t以上の闇米を集めた。4ヶ月後、「美味しいご飯を炊くのに火加減を変える必要はなく、沸騰してから100℃で20分間加熱すれば、β澱粉がα澱粉化して美味しくなること」が分かった。しかし、お米の量や水の量などにより、沸騰するまでの時間が異なるため、自動化は不可能だと思われた。
 また、開発の壁となったのは自動スイッチ「バイメタル」であった。「バイメタル」とは、釜の温度が上昇したら自動的に電源が切れるスイッチであるが、風呂場の横や屋根の上といった暑い場所では正常に動作したが、冬の寒い屋外で試すと、釜内部の温度が上がらなかった。そんな中、妻・風美子が腎臓病で倒れてしまう。

※桃太郎のビジネスコラム 128「☆ 台所革命を起こした町工場 ☆」
http://www.echirashi.com/column/html_columns/momo128.htm

試行錯誤を繰り返して生まれたのが、「二重釜間接炊き」という方法である。二重鍋の外釜にコップ一杯ほどの水を入れ加熱する。水が蒸発して外釜の水がなくなると急激に温度が上昇するので、ここでサーモスタット(温度検出スイッチ)により電源をオフにするようにしたのである。
妻が倒れるといった問題を抱えながら、ついに3年後、1955年12月10日電気釜は完成され東芝から発売される。この定価は3,200円であった。これは当時の大卒初任給の3分の1に相当する高価なものだ。

木村勝己「台所革命!世界初の電気炊飯器の誕生物語」

 この世界初の自動電気炊飯器「電気釜」の発売は、主婦の家事労働を減らしたばかりか、睡眠時間を1時間延ばし、海外で開発された電気掃除機と電気冷蔵庫と共に「三種の神器」と呼ばれた。高価にもかかわらず、発売当初から売り切れ店が続出し、5年後の1960年には、全家庭の約半数にまで普及した。お米を主食とする国へも「オートマチック・ライス・クッカー」の名で輸出された。(竈で主食の米を炊く容器を「釜」、副食のおかずを煮る容器を「鍋」という。)

※「東芝未来科学館」「1号機ものがたり」「日本初の自動式電気釜」
https://toshiba-mirai-kagakukan.jp/history/ichigoki/products.htm?morebox=y1955cooker-more#y1955cooker
※「サンコーシヤ」
https://www.sankosha.co.jp/
※NHK『プロジェクトX』2001年2月27日(第42回)「倒産からの大逆転劇_電気釜~町工場一家の総力戦~」
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000243000420000.html
http://www2u.biglobe.ne.jp/~tougyuu/nikki3a01.htm

2.炊飯ジャー

 電気炊飯器は、お米が炊けると、自動的に電源が切れる。求められた機能は「保温」機能であった。1972年、ついに、長時間保温できる「ジャー炊飯器」が発売された。これは、電気釜の炊飯機能と保温ジャーの機能を一体化した商品で、炊飯したご飯を保温ジャーに移し替える手間が省けた。
 現在の炊飯器の保温機能は、12~24時間70℃を保つ(機種によっては保温温度を選択できる)というもので、時間が経つと劣化が気になり始めるので、食べ残したら、昔ながらの木のお櫃に移し、食べる直前に電子レンジで瞬間加熱した方が美味しいといい、それがランチパックの開発に繋がった。とはいえ、1度に多くを炊かずに、6時間以内に食べきれる量だけ炊くのがいいと思っている。最大炊飯容量(5.5合炊き(1.0㍑)であれば、5.5合)炊く人は「お米を洗うのが面倒だから」「お米を炊くには電気代が必要だから」であろうが、最大炊飯容量だと味が落ちるし、1回炊くのに使う電気代と12時間保温する電気代とは同じだとも聞く。

※象印「炊飯ジャーと炊飯器って何が違うの?」
https://www.zojirushi.co.jp/corp/100th/products/topics02.html

3.マイコン式炊飯器


 爆発的に売れたのが、この1979年発売の「マイコン式炊飯器」である。「マイコン」(「マイクロコンピュータ」の略)という響きがよかったこともあるが、複数のセンサー(検知器)とマイコンが内蔵されており、温度の測定と火力の調節ができるようになって、ご飯の味が飛躍的に向上した。

4.IH炊飯器


IH(インダクション・ヒーター。電磁誘導加熱)の採用により、釜自体が発熱するので、強い火力が得られるようになり、「かまど炊き」が再現された。
 1992年には、圧力効果により、IH炊飯器よりも柔らかなご飯を炊ける圧力IHジャー炊飯器が発売され、現在の最高峰の炊飯器となっている。

<ハイテク炊飯器(高級炊飯器)の特徴>

・中パッパ=IH方式加熱⇒圧力IH方式加熱
・ブツブツ=インバータ制御
・センサーを活用するニューロ・ファジィ=マイコン制御
・全面遠赤外加熱=加熱の均一化により風味の損失が減少

■炊飯器の技術史

TIGERの炊飯器の歴史(商品カタログより)
MITUBISHI ELECTRICの炊飯器の歴史(商品カタログより)

1955年 世界初「自動式電気釜」発売(東芝)
1960年 自動保温式電気釜発売
1965年 圧力式電気釜、調理用電気釜発売
1968年 小型電気釜発売(独身者用。ゆで卵や即席食品が調理できる。)
1972年 長時間保温できるジャー炊飯器発売
1979年 マイコン搭載電子ジャー炊飯器発売
1988年 電磁誘導加熱(IH)炊飯器発売
1992年 圧力IHジャー炊飯器を発売
2003年 高温スチーム機能を採用したIHジャー炊飯器発売
    ・高温スチームで甘みと香り豊かなご飯を炊き上げる。
    ・保温時もスチームで乾燥を防ぐ。
2006年 高級IHジャー炊飯器発売(内釜に金属以外の素材を使用)
2008年 蒸気レス炊飯器発売(気密性の高い部屋でも蒸気が出ない。)
2010年 昔ながらの羽釜形状の高級IH炊飯器発売
2014年 高付加価値の小容量IH炊飯器発売
2016年 内釜の素材や形状を工夫をした高級IH炊飯器が主流に。
    ・コーティングに南部鉄器、土鍋、炭素材などを使用。

※「炊飯器の歴史とヒミツ」
https://shouene-kaden.net/try/kaden/rice_cooker.html

■技術解説


 電気炊飯器は電気を熱に変える「電熱機器」であり、
①釜(外釜と内釜。固有部)
②ヒーター(発熱部。仕事部。IHの場合は内釜)
③サーモスタット(温度調節部)
からなる。

 現在の電気炊飯器には、大きく分けて「マイコン式(直接炊き、間接炊き)炊飯器」と「IH式炊飯器」の2種類に分かれる。そして、IH式炊飯器には、圧力をかけながら炊飯する圧力IH式炊飯器もあり、全部で4種類になる。

電気炊飯器┬マイコン式炊飯器─┬①間接炊き
     │         └②直接炊き
     └IH式炊飯器(広義)┬③IH式炊飯器(狭義)
               └④圧力IH式炊飯器

マイコン式炊飯器(間接炊き):「二重釜」とも呼ばれる加熱方式で、
外釜に水を入れ、本体底のヒーターで外釜内の水を加熱し、間接的に内釜のお米を蒸すタイプ。
 ヒーターは「シーズヒーター」(発熱体(ニクロム線)を金属パイプに入れ、絶縁体のマグネシアを詰めたヒーター)、サーモスタットは「バイメタル」(熱膨脹率が異なる2種類の金属を使用)か「磁石式サーモスタット」(高温になると磁性を失うフェライトを使用)でしたが、今はサーミスタセンサーとマイコンによる制御に変わっている。

マイコン式炊飯器(直接炊き):炊飯器本体の底のヒーターが、直接、内釜を加熱して、ご飯を炊くタイプ。

ZOJIRUSHIの「鉄(くろがね)仕込み豪炎かまど釜」(商品カタログより)

IH式炊飯器:IH(インダクション・ヒーター。電磁誘導加熱)により、内釜自体を発熱させるタイプ。したがって、内釜は磁力線を通す素材でなければならない。内釜の外部は磁力線を通すステンレス、内部は熱伝導率の良いアルミニウムを使い、さらにコーティングにより遠赤外線を発生させる。
 高火力に加え、理想的な温度管理を行うことにより、水が対流してお米が踊り、炊きむらが少なくなり、ふっくらと炊き上げることができる。

圧力IH式炊飯器:炊飯器内に圧力をかけながら炊飯するIH式炊飯器。
 水(純水)は、地上付近の1気圧(1013.25hPa)では、100℃で沸騰するが、気圧の低い富士山頂(標高3776m、気圧630hPa)では87℃に沸点が下がる。逆に高気圧下では沸点が上がる。そこで、圧力をかけ、1.25気圧(1266.56hPa)にし、水の沸点を106℃に上げることで、お米の弾力や旨みを引き出し、ふっくらもちもちのご飯に仕上げるタイプ。

■現在の炊飯器

各社カタログ

(1)名称


①炊飯器:Panasonic、HITACHI、IRIS OHYAMA
②炊飯ジャー:ZOJIRUSHI
③ジャー炊飯器:TIGER、TOSHIBA、MITUBISHI ELECTRIC、SHARP

(2)製品ラインナップ


①マイコン搭載ジャー炊飯器(低価格品)
②IHジャー炊飯器(主力商品)
③圧力IHジャー炊飯器(高級品)

 電気炊飯器といえば、「炊きたて」のイメージが強いタイガーと、「魔法瓶」のイメージが強い象印が2大メーカーである。
 今年は寅年だからか、タイガーの方がややリードしている感があるが、象印は、他社と違い、カタログにも、TVのCMにも、主婦に人気の芸能人を使って巻き返しを図っている。(個人的には髭を生やしていない方を採用した方がいいと思う。また写真もシェフのコスプレがいい。)タイガーは、創業100年で、100周年記念モデルJPL-Sを出した。土鍋である。重いし、欠けそうだし、波紋底というのがよそうにも洗うにも大変そうだが、「ご泡火(ほうび)炊き」と言われると、「自分へのご褒美に、ボーナスが出たら買おう」という気分になる。

電気炊飯器にはガス炊飯器に対抗して早炊き機能がついた。
イネの銘柄別炊飯モードもついた。

数年前の商品が、今でも「名品」として売れていることを思うと、もう技術開発の頂点に達したようにも感じる。

■書き終えての感想


タイトルは、
「炊飯の技術史 -弥生時代から現在まで-」ではなく、
「炊飯器の技術史」であり、実際は、
「自動電器炊飯器の技術史 -1955年から現在まで-」である。

 最初の記事ということで、がんばって書いたらあれこれ詰め込みすぎた。(とはいえ、文字数は6000文字に達していない。)
 内容的には、技術系列「技術史」というより、家庭系列「消費者教育」になっている。
 次回からは「1分で読める技術史」を目指したい。

【おまけ】お米は、弥生時代のように土器で煮ても、電子レンジでチンしても食べられる。問題は、おいしいか、まずいかである。

※『お米の文化と歴史』「こんな器具でもごはんが炊けるんだ!」
https://www.komenet.jp/bunkatorekishi/bunkatorekishi04/bunkatorekishi04_3/

 電気機器メーカーの考えは、「竈炊きが最高」であり、目標は「竈炊きの再現」である。具体的には、
・「はじめチョロチョロ・・・」という温度調整(マイコン制御)
・釜全体の発熱(釜底のシーズヒーターからIHへ)
となるが、この方針は正しいのであろうか?
 お米は「100度で20分炊けば美味しい」と三並一家が言ってるわけで、火力の強いガスの方が(特に玄米の場合は)得意な気がする、炊飯に電気機器が使われるのは、細かな温度調節が得意だから、竈やガスのように火を使わないので安全だからであろう。

 業務用のイメージが強いガス炊飯器の長所は、
・電気よりも強い火力で炊き上げるので、炊き上げまでの時間が短い
・釜の中が最高で1000℃を超える高温になり、「竈炊き」に近い
ことである。

★リンナイ
https://rinnai.jp/products/kitchen/ricecooker/
★パロマ
https://www.paloma.co.jp/product/kitchen/rice_cooker/index.html

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