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鳳来寺の扁額

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■夏目可敬『参河国名所図絵』
同額 光明皇后の御染筆にして『集古十種』「扁額の部」に撰び入給ふ。縮図下に出す。縁起に云。光明皇后御誕生は当山に厚き御由緒有といへども事繁ければ除くと見えたり。
 ○題字、『集古十種』には「筆者不詳」とあり。

【意訳】「鳳来寺の扁額」 光明皇后(藤原不比等の娘)の書である。『集古十種』「扁額の部」に掲載されている。光明皇后の誕生は、鳳来寺と深い関係がある(恐れ多いことで、省略している縁起書が多いが、実は光明皇后の実父は利修仙人である)ので、扁額を書いたのであろう。ただし、上掲の『集古十種』には「筆者不詳」とある。

光明皇后書の扁額は、仁王門にレプリカが掲げられているが、最初にこの字を見た時、
「光明皇后や、書家の字だろうか? 筆文字クリエイターの字のようだ」
と感じたことを思い出した。実際は「光明皇后書(伝)」であり、実は「筆者不詳」なのではないか?

他の記事に書いたように、私は、鳳来寺は持統上皇三河御幸の時に建設が始まったと考えている。今回、鳳来寺の文献調査をしていて、太田白雪の『反古探し』に「扁額は持統上皇の書ではないか?」とあり、

 ──我が意を得たり!

と思った。

  天武天皇
        ├草壁皇子【早世】─文武天皇─聖武天皇
  持統天皇(上皇)    利修仙人   ├孝謙天皇(重祚:称徳天皇)
                    ├光明皇后(藤原不比等の養女・光明子)
                                            しか

■太田白雪『反古探し』「鳳来寺と云ふ額、光明皇后の御筆」
 愚案、おそれがましき事ながら、是は相違と思へり。尤も光明皇后の御事、鳳来寺由緒書にあれ共信用できず。此の事は後に記す故、略す。
(愚者(謙遜)の私が思うに、これは光明皇后の直筆ではないと思う。(後述のように持統上皇の書ではないかと思う。持統上皇三河御幸の時に書いたのであろう。)光明皇后と鳳来寺とのつながりは、『鳳来寺由緒書』に「光明皇后は鳳来寺開山・利修仙人の実子」とあるが、これは信用できない。)

しかし、残念ながら、光明皇后の書である可能性が高い。
というのも、昭和63年(1988年)の仁王門大修理に於いて、扁額をはずした時、扁額の裏に次の裏書(由緒書)が書かれていたからである。(ただ、当時の裏書ではなく、江戸時代の裏書であり、伝承を書いたのであろう。)

抑当峯社白鳳改元開山仙人之草創而文武皇帝勅願之勝地矣開山駕鳳凰往来因賜于鳳来寺之勅号哉聖武御宇使光明子書三文字永以掲於斯閣上焉茲歳享保己酉之春大樹大君賜以砂金一千両良材六万挺因茲堂社之修覆不日而畢功遂命工写飾於榜書本書以納筥秘宝庫写標于閣上是併流旨趣於千載耳

【書き下し文】抑(そもそも)当峯社は、白鳳改元に開山仙人の草創にして文武皇帝勅願の勝地なり。開山、鳳凰に駕して往来す。因て鳳来寺の勅号を賜る哉。聖武御宇、光明子をして三文字を書かしめ、永く以て斯の閣の上に掲ぐ。茲歳、享保己酉の春、大樹大君、砂金一千両、良材六万挺を以て賜ふ。茲に因て、堂社の修覆、日ならずして畢ぬ。遂に工に命じて榜書を写し飾る。本書を以て筥に納め、宝庫に秘し、写しは閣の上に標ぐ。是れ併はせて旨の趣を千載に流すのみ。

【大意】「鳳来寺は白鳳元年創建の文武天皇の勅願所である。開山仙人は鳳凰に乗って往来したので、「鳳来寺」という寺号を賜った。聖武天皇の御宇、光明皇后が「鳳来寺」と書いて下さったので、楼閣(仁王門)に掲げた。1729年春、徳川将軍吉宗が砂金で1000両、良質の木材を60000本を献上されたので、堂社の修理は短期間で終了した。そして、工(たくみ)に命じて光明皇后の「鳳来寺」の扁額のレプリカを作らせ、本物は箱に入れて宝庫に納め、このレプリカを楼閣(仁王門)に掲げた」ということを裏書して後世に伝えるものである。

 それはそうと「來」の1画が足りない。弘法大師なら筆を投げてるぞ。(楼門(仁王門)の扁額には点がある。)

※弘法にも筆の誤り:弘法大師が天皇の命を受けて平安京の応天門に設置する額に文字を書いた際、「応」の字の「心」に点を1つ書き忘れてしまった。設置後に気付いた弘法大師は、額に向かって筆を投げて点を書き加えたという。「弘法にも筆の誤り」という格言(ことわざ)は、「弘法大師のような書の達人でも書き損じることがあるように、その道に長じた人でも時には失敗をすることがある」という意味で使われる。ドクターXのように、失敗しない人はごくごく稀である。今夜の『ドクターX』でもミスしないであろう。

なお、勅養寺の縁起では、文武天皇の書とする。

■『三河国設楽郡矢部村勅養寺縁起』
大宝三年癸卯、始被下鳳来寺題額。

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