世界と色は

実家から歩いて最寄り駅まで行く道に、魔法としか言いようがない場所があった。
他の人から見たらなんでもない場所なのは百も承知なのだが、通るたびに何故か歌詞のかけらというか光景が浮かんできた。それらは曲になったりならなかったりしたが、そこをひとりで通るのが習慣になっていた。


4月に引っ越しをして、新しい町にやってきた。
魔法としか言いようがない場所なんて当然ない。広めの道路から見る夕陽は悪くはないが、特に何も浮かばない。

いい感じのお茶屋さんや面白い地形の場所を見つけ、土地ならではの楽しさを享受できているとは思うのだが、何が足りないのだろうか。

町は本来、一気にはできあがらない。同時に沢山の建物が建てられたとしても、地域に住む人の様々な人の様々な事情でリフォームされたり建て替えられたりして、古い建物・新しい建物・リフォームによって築年数がわかりにくくなっている建物が混在することになる。ところが、多摩ニュータウンに代表されるような集合住宅が基本の町はそうはいかない。一気に作られ、一気に朽ちていく。それはそれで趣があり、私自身時々見たくなるような面白さはあるが、毎日見たい、あるいは住みたいかと訊かれるとそれは違う気がする。
一種のSFっぽさというか、非現実感を無責任な部外者だからこそ楽しめるのだろう。

引っ越してきた町はニュータウンではないのだが、再開発がジワジワと進行している。いつ頃完成するのかはわからないが、少しずつ用地を買収して道路を拡張しているようだ。そうして広くなった道路からインスタ映えしそうな夕陽が見えたりするのだが、道のデザインがあまりにも無味無臭というか当たり障りがないというか、よく言えば綺麗なもので、特に心震わせる出来事に出会えたりはしない。

でも、しばらくここで住むと決めた以上、文句を言っていても仕方がないとは思っていて、散歩をしてみたり地域の歴史を調べてみたりしている。少し特殊な地形だったり遺跡を生かした公園が多いみたいだから、何かしら面白エピソードに遭遇できそうなものなのだが、今のところ出会えていない。地域の図書館に行ってみるといいのだろうか。個人的にはインターネットが好きだが、オフラインにしか存在しない情報はかなり多い。


私は今の町を好きになれるだろうか。
自転車を注文して今月中旬には届くから、早くスイスイ出かけたい。

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