レンタルショップは返却の客が朝の開店時間からの大半を占める。おそらく通勤の途中などに返却するお客さんだ。スーツ姿の男女が多い。忙しい休憩や仕事前に合間を縫ってくるのかもしれない。どんどん溜まる返却ボックスからナイロンの返却バッグを開けてDVDケースを机に積み上げていく。これが私の仕事だ。初めて受かった面接だ。たくさん落ちた。でも受かった。働くのってすごくハードルが高いんだなあ。でも受かったんだからやっと働ける。嬉しい。お金が入れば認めてもらえる。

点検、クリーニング、整理、陳列…手順を反芻する。早く覚えなくては。お客さんはレジにどんどん並ぶ。こちらの仕事など知らないんだから当たり前だ。機械的にケースを開いては盤面をクロスで拭いてタイトルの50音順に並べる。ジャケットデザインで分かりづらいものは調べる。盗難防止ストッパーを付ける。レジ内のシステムで検索する、その前に従業員カードのバーコードをスキャンして……アダルト、アダルト、アダルト、あ、なるほど。仕事前に返してるんだ。こんな風に普通に働いてる人たちも人間なんだ。世の中って男性ってこういう感じなんだ。へえ。でもこの人おじいさん世代だけど…どんな気持ちで見るんだろう。こういう人もこういうの見るんだ。なんだか意外だな。なんか頭が痛いし嫌なこと思い出してきた。仕事なのに。そういう仕事なんだってわかってるのに。いつまで昔のことで…それより仕事しなきゃここの地域だと若い人はそんなに人気ないの？…またこのタイトルか。こんな長時間見続けるのかな。あれ？タイトルは同じなのにジャケットが違う。あ、新作は別料金、これは旧作で、でも6本だから5本以降は通常の…あ、親子連れ。いいね。仲良さそう。お母さんと映画。でも1本レンタル中だから言わないと。常連の人？そうなんだ…かわいい、私…顔？なんて思えばいいんだろう。目立ってるってことだ…この人私のこと覚えたのかな？どうすればいいんだろう…それより料金表…全然頭に入らない…なんで覚えられないんだろう。簡単って簡単じゃないよ。でもメモしてるしやるしか。今日は、何曜日だっけ？カード大会、だから土日。合ってる。今の子ってお金使えるんだ。ちゃんと財布使ってる。すごいなあ。販売だからこっちのレジで。あ、どうしよう、間違えた…修正、頼まないと…みんな忙しそうだし、並んでる。私のせいで混んでる。すいません、間違えてしまって…なんか怒ってる、私が覚え悪いから怒ってるんだ。そうですよね…。すいませんって言って何回目だよって思われちゃうよね。口だけですいませんって謝っても許されない。私はどうすればいいんだろう。手震えてる…？ほんとだ？落ち着きます。大丈夫です…休憩…？体調不良も迷惑。ですね、すみません…こんなによくしてもらってるのに、どうすれば…挨拶…？それって嫌われてるってことですか？私なんかが話しかけたら迷惑じゃないですか？印象…常識…ないですか。今までどうやって？馬鹿にしてません！わざとじゃなくて…あの、辞めさせてください。本当にごめんなさい。迷惑しかかけられなくて…具合悪くしてすいません…心配かけて、店長はいい人なのに。本当は病院通ったりしてて、みんな週5ペースなのに。手術とかしててどうしても必要で…面接で言わなきゃいけなかったです。覚えようとしてるのに覚えられなくて、メモが間違ってる？ああ…すいません…本当に情けなくて。働いたら変わるかもってちゃんとした人間になれるって思って。泣いてすみません。店長は親身になってくれて…抱きしめる？嫌じゃないです…セクハラ…え、それって…？あ、ありがとうございました。短い間になって…店長の電話番号…ですか。相談…悩みって言ってたけど、きっと重くしかなれないな。迷惑しかかけてなかったし嫌われるような人間なんだ私は頭も悪いし

行けない場所が増えていく。頑張ろうとするたびに、失敗するたびに近づきたくなくて嫌なことを思い出す道や場所が増えた。嫌な街なんじゃないか。どこにいても駄目だけどここは駄目になりすぎている。

違う場所がいいな。離れた場所に行きたい。駄目な私のことを誰も知らない場所に