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魔術人間ユカリ

 ユカリは考える。

「おれは何の為に生まれたのか。おれはどこに行けばいいのか。おれが生きることに意味はあるのか」

 血液と臓物、肉片をばらまきながら、彼は考える。

「おれは何の為におれになったのか。あるいは、おれはおれになることができるのか」

 覚醒は突然だった。まるで神からの贈り物のように、彼は自我を獲得した。それまでの彼は造られた生命であり、実験動物であり、意思なき戦闘兵器でしかなかった。

 目覚めたユカリは、ふと、厭だな、と思った。度重なる実験。自由などない。魔術師たちの管理下で、弄ばれている。

「おれはあいつらに支配されて、それは厭だと思った。でも、なんでおれはそんな事を思っている?」

 何が何だか分からない。彼はまだ子供だった。――でも、抗おうと思った。

 だから、彼は殺した。

 その部屋はどこかの施設の一室で、色々な実験器具と装置――化学か、魔術か。ユカリにはよく分からない――があった。人間は五人いた。その中の一人は、魔術師だった。ミツバ。茶色の髪の、眼鏡をかけた女だ。

 ユカリの身体には、よく分からないチューブ類と拘束具が繋がっていて、その近くでミツバがコンピュータを操作していた。部下と何か言葉を交わしている。専門用語はよく分からない。

 ユカリはやれると思った。

 ぶちぶち。ユカリは力を込めて拘束を引きちぎった。二秒後。ミツバが異変に気付き、声を上げた。ユカリは右腕を触手に変形させた。その触手は枝わかれしていて、先端は刃になっている。
 ミツバは動揺しながら、何らかの魔術を使うそぶりを見せた。ユカリはそれより早かった。肉の刃が動いた。魔術師の身体が、バラバラに解体される。そして後には、肉と血と骨が残った。

 やった。ユカリは思った。特に気分が良いわけでもない。でも、できた。彼の眼は、残る職員に向けられた。電話をしている。怯えた表情。逃亡。

 左腕も触手に変化させる。逃がさない。

【続く】

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