ハカsober

短編小説を書いていきます。統合失調症で闘病中。趣味は格闘ゲーム。

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最近の記事

短編小説:ヘッドセット・ゲームキッズ

 23時。決闘の舞台は、ダークシティの片隅にある路地裏だった。殺し合う二人は共に人外の技を使っている。一方は掌から黒い気弾を放ち、一方は肉食獣よりしなやかに動く。二人とも、素手だった。  気弾を放つ男――黒いスーツを着た大男は、ギミー・デンジャーという名で知られていた。ファイターの中でも屈指のパワーを持ち、一度相手を捕まえれば、それですべてを終わらせることもできる。しかし、彼はいま、劣勢だった。  相手は、赤いチャイナ服を着た少女だった。彼女はギミー・デンジャーが気弾を放

    • 【掌編小説】手首の傷に花丸を

       朝、3回目のアラームで目を覚まし、ベッドから身を起こし、思い至った。  今日は特別な日。  私は、起床後にやるべき様々なことをやろうとする。一日の始まり。その中で、ボンヤリと思考する。ああ、私は今日まで生き延びたのか、と。  洗面所で歯を磨きながら、鏡の中の女を眺める。短い黒髪。少年のような顔。  口の中のものを吐き出す。口の中を洗って、呟く。 「頑張って生きてきたな、私」  長袖をめくって、両手で顔を洗う。  ふと、左手の手首が視界に入った。  自傷行為の

      • ブルーライト・ゲームキッズ

         暗いベッドルームに一人の少年がいた。ゲーミングチェアに座る彼は白いパーカーを着ていて、茶色の髪は中性的な長さにカットされている。目の前にはPCモニターがあり、唯一の明かりとなるブルーライトを放っていた。少年の頭部にはヘッドセットが装着されている。手元にはレバーレスコントローラ―。これは細長い箱の表面に12個のボタンがついた奇妙な代物だ。  モニターの中では対戦が行われている。二人のキャラクターによる、一対一の戦い。格闘ゲーム。  ヘッドセットの向こうから少女の声が聞こえ

        • 【短編アクション小説】恋と煙草と格闘ゲーム

           決闘が始まろうとしていた。  私は意識して呼吸する。左手でレバーを握る。右手の下には六つのボタン。目の前にはゲーム画面。  キャラクター選択。私はレバーを操作し、迷わず「フライデイ」を選ぶ。パンツスーツにサングラスの、黒人女性。見た目で選んだが、今では私の分身と言える存在になっている。 「やってるねえ、女子高生ちゃん」  背後で女性の声が聞こえたが、スルーする。  相手の選んだキャラクターは「ロリポップ」だった。メイド服を着た小柄な女性キャラ。ただし、性能は”ゴリ

        短編小説:ヘッドセット・ゲームキッズ

          【短編小説】半透明少女関係

           ヒグラシが鳴いていた。太陽がゆっくりと落下して、世界は明度と温度を下げていく。街は夜を迎えようとしている。――だけど、まだ夕方。  街の片隅にある、アパートの一室。そこでは、二人の少女の笑い声が響いていた。二人は壁際のモニターに向かって、クッションに座りながら、格闘ゲームをやっている。部屋は8畳ほどの広さで、壁には女優のポスターやミュージシャンのポスターが、壁を埋め尽くすほどに張られている。ここが部屋の主、レイの世界だった。  レイは24歳。色白で、きれいな顔をした

          【短編小説】半透明少女関係

          恋と煙草とアーケード

           午後七時。バイトを終え、私はゲームセンターへと入っていく。騒がしい電子音が私を迎える。それと、煙草の匂いも。一か月前は抵抗感のあったそれらも、今では慣れたものだ。私の世界は変わろうとしている。  私は目的地へと足早に歩く。――視線を感じる。それはそうだ。私は目立つ外見をしている。顔が良い十代の女で、セーラー服を着ているから。正直に言うと、気分のいい境遇ではある。あの、彼のことが無かったらの話だが。  目的地。格ゲーフロア。煙が漂っている。ゲーム筐体が所狭しと並び、男たち

          恋と煙草とアーケード

          トランポリンガール

           私は混乱している。それは確かだ。だけど、私はなぜ混乱している? その理由が分からない。記憶が混乱している。一時間前、私は何をしていた? 脳にアルコールが入っているのか? 薬が入っているのか? 思い出せない。私はジャケットを着ている。スカートをはいている。私はストリートにいる。真夜中だった。街のライトが輝いている。  私は息を切らして走っている。 「はあっ、はあっ、はあっ……」  自分の息遣いが聞こえる。心臓がドクドク鳴ってる。脳がガンガン痛む。だけど、私は走らないとい

          トランポリンガール

          魔術人間ユカリ

           ユカリは考える。 「おれは何の為に生まれたのか。おれはどこに行けばいいのか。おれが生きることに意味はあるのか」  血液と臓物、肉片をばらまきながら、彼は考える。 「おれは何の為におれになったのか。あるいは、おれはおれになることができるのか」  覚醒は突然だった。まるで神からの贈り物のように、彼は自我を獲得した。それまでの彼は造られた生命であり、実験動物であり、意思なき戦闘兵器でしかなかった。  目覚めたユカリは、ふと、厭だな、と思った。度重なる実験。自由などない。

          魔術人間ユカリ

          ラヴリータイラント

           十四人の視線が、王の前に立つ少女に向けられていた。 「ふむ」  少女は微笑み、尊大に頷いた。 「不信、殺意、畏れ――そんなところか、この凝視は。悪くない。私が誰だか忘れられたかと思ったぞ、アスラ」  評定の間は幽玄なる灯で照らされていた。今、この場には国の最高幹部十三人が揃っている。彼らは皆、頭に角を生やした鬼であった。  そして玉座に座る男こそ、鬼の王、アスラだ。彼はまだ若く、精悍な顔立ちをしている。 「殿下」アスラは動揺を隠せぬ声で言った。「生きておられたか。十

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