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トランポリンガール

 私は混乱している。それは確かだ。だけど、私はなぜ混乱している? その理由が分からない。記憶が混乱している。一時間前、私は何をしていた? 脳にアルコールが入っているのか? 薬が入っているのか? 思い出せない。私はジャケットを着ている。スカートをはいている。私はストリートにいる。真夜中だった。街のライトが輝いている。

 私は息を切らして走っている。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

 自分の息遣いが聞こえる。心臓がドクドク鳴ってる。脳がガンガン痛む。だけど、私は走らないといけない。

「逃げ、逃げないと……!」

 逃げないといけない。背後に死が迫っている。後ろの闇には、奴がいる。

「うっ……!」

 馬鹿、私は転倒した! スカートが汚れた、どうでもいい、止まってしまった! 

「馬鹿馬鹿!」

 私は慌てて立ち上がった。その時、視界の隅に浮浪者の姿が映った。街灯の下、彼の老いた顔が私を見ている。

 ――敵か? 奴の手下か? 私は逡巡する。

 結局のところ、私はそのまま走り出した。状況が悪い……どうにかしないと。


 私はドアを開けてバーに入った。薄暗い空間。客は一人。ここは馴染の店だ。奴から身を隠すことができるか?

 呼吸を整えながら、カウンター席に座る。ビールを頼む。

「お嬢さん。ずいぶん必死みたいだね」

 隣に座る男がそう言った。私は動揺して、彼の顔を見た。余裕のある、整った顔だ。

「リラックスしなよ」彼は静かに言った。「急いでも、人生ままならんよ」

「……!」

 私は確信する。この男は、敵だ。私は鞄の中から拳銃を取り出す。

 銃口を男に向けると、彼の顔は歪んだ。油断している、僥倖だ。私は撃った。

 バン!

 男の額に穴が開き、血が流れた。彼は倒れた。……やった。

「おっ、お前! いきなり何をしてる!? 馬鹿な、殺すなんて!」

 バーテンダーが叫んだ。私は驚愕する。こいつまで、奴の手下に? 私は銃を彼に向けた。

 バン!

【続く】

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