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【人事に効く論文】職場メンバー間でのナレッジ共有を活性化するには?

Foss, N. J., Minbaeva, D. B., Pedersen, T., & Reinholt, M. (2009). Encouraging knowledge sharing among employees: How job design matters. Human Resource Management, 48(6), 871–893.

1. 3分で分かる論文の概要

職場内でのナレッジ共有(knowledge sharing)について、従業員はナレッジ共有をどのように動機付けられるのか、調査・分析した論文です。ドイツの機械メーカーにおけるコペンハーゲン拠点(@デンマーク)の従業員を対象に実施されたアンケート調査への回答186名分を分析し、以下の仮説が検証されました。

仮説①:ナレッジ共有に対する内発的動機付け(intrinsic motivation)が強い従業員ほど、a)同僚から知識を受け取り、b)同僚に知識を発信する
→ 支持された。内発的動機付けは、ナレッジの受信と発信双方に正の影響を与える

仮説②:ナレッジ共有に対する取り入れ的動機付け(introjected motivation)が強い従業員ほど、a)同僚から知識を受け取り、b)同僚に知識を発信する
→ 部分的に支持された。取り入れ的動機付けは、ナレッジの発信のみに正の影響を与える

仮説③:ナレッジ共有に対する外的動機付け(external motivation)が強い従業員ほど、a)同僚から知識を受け取り、b)同僚に知識を発信する
→ 支持されなかった。むしろ、外的動機付けは、ナレッジの発信と負の相関がある

仮説④:仕事の自律性が高いほど、従業員はナレッジ共有に対して内発的に動機付けられる
支持された

仮説⑤:仕事の完結性(task identity)が高いほど、従業員はナレッジ共有に対して取り入れ的に動機付けられる
支持された

仮説⑥:人事評価等でのフィードバックが多いほど、従業員はナレッジ共有に対して外的に動機付けられる
支持された

2. 私的な解説/感想

この論文では、ナレッジ共有を受信(receiving)と発信(sending)に分け、内発的(intrinsic)・取り入れ的(introjected)・外的(external)の3種類の動機付けとの関係が分析されました。また、それぞれの動機付けに対して、仕事の自律性と完結性、フィードバックとの関係が検証され、それら分析・検証の結果は以下のパス図の通りです。一文で説明しますと、「メンバーの仕事の自律性を高めるとナレッジ共有が活性化される」という感じです。

これら因子の中で、特に分かりにくいのが、取り入れ的動機付け(introjected motivation)と仕事の完結性(task identity)ではないでしょうか。論文内に実際に行われたアンケートでの質問文が掲載されていたので、ご紹介します。

取り入れ動機付け(introjected motivation)
私はナレッジを共有する、なぜなら・・・
・自分自身に誇りを感じるから
・私は良い従業員だと上司に思ってほしいから
・私は優秀だと同僚に思ってほしいから

仕事の完結性(task identity)
あなたの仕事に以下の特徴はどの程度当てはまりますか?
・自分が着手した仕事を自分で完結できる
・最初から最後まで仕事を進められる
・他者から独立して自分の仕事を進められる

これらの質問文を読む限り、取り入れ的動機付け(introjected motivation)は「周囲から認められたい!」というかなり外発的な特徴を有しているようです。また、この論文では仕事の完結性(task identity)が取り入れ的動機付け(introjected motivation)に関係することが検証されました。独力で完結する仕事の場合、周囲から認められたい欲求が高まるのかもしれません。

3. 読後の余談

上記1・2で、この論文の最大のポイントをあえて深堀りせずにスルーしました。それは、「フィードバックによってナレッジ共有が外的に動機付けられるが、ナレッジ受信との相関は見られず、ナレッジ発信とは逆に負の相関がある」があるという点です。なぜなのか? その理由について、人事評価などで高い評価を得ようと従業員がナレッジ発信を戦略的に行うようになるからではないか、と論文内では推察されていました。フィードバックによってナレッジ共有をせっかく動機付けたのに、それがかえってナレッジ発信の足枷になってしまうのは、上司としてツライところです。フィードバックは慎重に。また、ナレッジ共有を表彰だなんてことはやめた方がいいかもですよ。

2023年12月16日 初稿作成

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