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【人事に効く論文】新人が職場に馴染むプロセスを学術的にモデル化してみました。

Ashforth, B. E., Sluss, D. M., & Saks, A. M. (2007). Socialization tactics, proactive behavior, and newcomer learning: Integrating socialization models. Journal of Vocational Behavior, 70(3), 447–462.

1. 3分で分かる論文の概要

大卒新入社員を対象とする組織社会化プロセスのモデル化を試みた論文です。米国のとある州立大学を卒業してすぐにフルタイムの従業員として働く2,000名を対象に3回のアンケート調査(①卒業の1週間前、②入社から4ヵ月後、③入社から7ヵ月後)を行い、すべてに適正に回答した150名分のデータを元に以下の仮説が検証されました。

仮説①a)組織による制度化された社会化施策(Investitureを除く)は、新人の学習と正の相関がある
→ 支持された

仮説①b)Investiture(任用的社会化)と新人の学習には正の相関がある
→ 支持されなかった

仮説② 新人のプロアクティブ行動は、新人の学習と正の相関がある
→ 支持された

仮説③ 新人の学習は、a)パフォーマンス、b)職務満足度、c)組織アイデンティティと正の相関があり、d) 離職意思と負の相関がある
→ 部分的に支持された。a)パフォーマンス、b)職務満足度、c)組織アイデンティティと正の相関があった
が、d) 離職意思との負の相関はなかった

仮説④社会化プロセス(制度化された社会化・Investiture・プロアクティブ行動)は、新人の学習を介した間接的な関連をコントロールしつつ、a)パフォーマンス、b)職務満足度、c)組織アイデンティティと直接的かつ正の相関があり、d)離職意思と負の相関がある
→ 部分的に支持された

仮説⑤ a)組織による制度化された社会化(Investitureを除く)は、役割刷新と負の相関があり、b)プロアクティブ行動は役割刷新と正の相関がある。
→ 支持された

2. 私的な解説/感想

上記の仮説検証結果を字面で眺めていても分かりにくいですよね。統計的知見がある方であれば、以下のパス図を見たら結果は一目瞭然ではないでしょうか。制度化された社会化施策(Institutional Socialization)と新人のプロアクティブ行動(Newcomer Proactive Behavior)が新人の学習(Newcomer Learning)に効き、それがパフォーマンス・組織アイデンティティ(Organizational Identification)・職務満足につながっていることが見て取れます。

新人によるプロアクティブ行動が重要であることは以下の論文でも示唆されていた通りですが、この論文では更にそれをモデル化したところに価値があるといえます。


3. 読後の余談

仮説やパス図で出てきたInvestitureという見慣れない単語、日本語に訳すのがとても難しく、とりあえず任用的社会化としてみました。新人の特性や能力を評価・尊重し、前向きに組織に取り込むような社会化のあり方を意味します。反対語はDivestiture(剝奪的社会化)。こちらは新人に既存の組織文化や価値観を押し付ける社会化です。
パス図を見ていただければ分かる通り、Investitureは新人の学習とは相関がありませんが、組織アイデンティティ・職務満足・離職意思とは有意な相関があります。新規業界への転職によって未経験者がキャリア入社する際、InvestitureではなくDivestitureされまくってしまい、早期離職につながりやすい状況と合致しているのではないでしょうか。

2023年11月24日 初稿作成

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