見出し画像

【人事に効く論文】御社の360度評価、本当に機能していますか?

Brett, J. F., & Atwater, L. E. (2001). 360° feedback: Accuracy, reactions, and perceptions of usefulness. The Journal of Applied Psychology, 86(5), 930–942.

1. 5分で分かる論文の概要

360度評価について、評価を受ける側の”反応”を中心に研究した論文です。2年以上の管理職経験を有するMBA学生125名を対象に、本人および他者(上司・同僚・部下)による評価(20次元・87の行動項目)を行い、その後のフィードバックセッションにてレポートが返却され、個人面談も行われるなど、手厚い360度評価プログラムの結果に基づき、以下の仮説が検証されました。

仮説①:他者からの評価が高いほど、本人はその結果を正確であると認識する
→ 上司・部下からの評価において支持された (同僚は×)

仮説②:他者からの評価の高さは、本人のポジティブな反応と相関する
→ 上司・同僚・部下いずれの評価でも支持されなかった

仮説③:他者からの評価の低さは、本人のネガティブな反応と相関する
→ 上司・同僚からの評価において支持された (部下は×)

仮説④:過大自己評価者(本人評価が他者からの評価よりも高い人)は、過大自己評価が少ない人に比べて、フィードバックの結果が正確さに欠けるとみなす
→ 上司・部下からの評価において支持された (同僚は×)

仮説⑤A:過小自己評価は、本人のポジティブな反応と相関する
→ 
上司・同僚・部下いずれの評価でも支持されなかった
仮説⑤B:過大自己評価は、本人のネガティブな反応と相関する
→ 上司・同僚からの評価において支持された (部下は×)

仮説⑥A:正確さの認識は、本人のポジティブな反応と正の相関がある
→ 同僚・部下からの評価において支持された (上司は×)
仮説⑥B:正確さの認識は、本人のネガティブな反応と負の相関がある
→ 上司からの評価において支持された (同僚・部下は×)

仮説⑦A:本人のポジティブな反応は、フィードバックの有用性認識と正の相関がある
仮説⑦B:本人のネガティブな反応は、フィードバックの有用性認識と負の相関がある
→ A・Bいずれも支持された

仮説⑧:正確さの認識は、フィードバックの有用性認識と正の相関がある
→ 支持された

仮説⑨A:フィードバックの有用性認識は、本人の成長志向性と正の相関がある
→ 支持された
仮説⑨B:フィードバックの有用性認識は、本人の防衛的態度と負の相関がある
→ わずかに支持された(10%有意水準)

仮説⑩A:目標志向性は、評価と正確さの認識の関係を調整する
仮説⑩B:目標志向性は、評価と本人のネガティブな反応の関係を調整する
仮説⑩C:目標志向性は、評価の不一致と正確さの認識との関係を調整する仮説⑩D:目標志向性は、評価の不一致と本人のネガティブな反応の関係を調整する
→ いずれも支持されなかった

2. 私的な解説/感想

仮説が17個も並んだので、ウゲっと思う方も多かったことでしょう。できれば、読み飛ばさずにじっくり読んでみて下さい。かなり興味深い結果になっています。例えば、この結果を上司・同僚・部下という軸で整理&解釈すると、以下のような感じになります。

上司から評価:
・上司からの評価が高いと、本人はその結果を正確であると見なす
・上司からの評価が低いと、本人のネガティブな反応につながる
・上司評価よりも自己評価が高いと、本人は上司評価が正確ではないと見なす
・上司評価よりも自己評価が高いと、本人のネガティブな反応につながる
・本人が上司評価は正確ではないと見なすことは、ネガティブな反応につながる

同僚からの評価:
・同僚からの評価が低いと、本人のネガティブな反応につながる
・同僚評価よりも自己評価が高いと、本人のネガティブな反応につながる
・本人が同僚からの評価は正確だと見なすことは、ポジティブな反応につながる

部下からの評価
・部下からの評価が高いと、本人はその結果を正確であると見なす
・部下評価よりも自己評価が高いと、本人は部下評価が正確ではないと見なす
・本人が同僚からの評価は正確だと見なすことは、ポジティブな反応につながる

つまり、上司・同僚からの評価は本人のネガティブな反応を招きやすいと言えそうなのです。そして、ネガティブな反応はフィードバックの有用性認識と負の相関がありますので、せっかく労力をかけて360度評価を実施したのに、その意味がなくなってしまうのです。本人に対して相当気を遣ってフィードバックしないと、今後の成長はおろか、モチベーションダウンにつながりかねません。皆さんの会社の360度評価は、そこまで考慮の上、実施されていますでしょうか?

3. 読後の余談

やや蛇足ながら、上記の内容を現実に即して解釈しますね。それは「自己評価が他者からの評価よりも高い人」ほど、360度評価の結果がネガティブな反応につながりやすく、無価値なものとして受け止められがちということです。本来「自己評価が他者からの評価よりも高い人」こそ、360度評価によって自己のあり方を見直すキッカケを得てほしい人なのに、これでは意味がありません。360度評価を商品としている業者(コンサルタントやシステムベンダー)にとっては不都合な真実かもしれません。しかし、こういったことも顧客にちゃんと説明してこそ、本当のプロフェッショナルだと思います。

2024年3月24日 初稿作成

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?