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vol.042「ドラえもんの価値は「問題解決」ではなく「感情処理」だった?」

山口周さんがnoteメンバーシップを始められて、急いで登録しました。まあ何と言えばいいのか、、、当たり前だけど、視座のレベルが違いすぎる。「むずかしいことをやさしく説明できる」の、お手本中のお手本だと思います。どの記事も面白く、学びになるなかから、「頭の筋トレ的に、脳内をぐるぐるかき回された」という観点で、ひとまず2つ、書き留めてみます。


1.「情報」とはなにか。

◆「呪い」とインターネット

『最近、「呪い」というものについて色々と考えていまして』からはじまる記事。まず、呪いについて色々考える、ということが我が身には起こらず、軽い嫉妬のような諦念のような感覚がわずかによぎったことを告白しておきます。

「呪い」とは人から可能性を奪う言葉である。
つまり「呪いは情報でできている」。
したがってインターネットと親和性が高い。

『#014 なぜインターネットは「呪い」に満ちてしまうのか?』無料部分より要約

インターネットにおいて、品質・内容はさておき、情報の生産・複製・流通が非常に低コストであることは周知の事実ですが、話はさらに、発信者と受信者、呪いをかける側と受ける側の非対称性へと進みます。(※私の解釈が混じってます。月額1,000円というリーズナブルさなので興味ある方は登録してみてください)


◆「情報」の歴史

ここで、「情報(の伝達)」の歴史を、大胆に・主観まじりで要約してみます。

①リアルタイムの時代
人類が言葉というものを編み出した。声、身振り手振りとも、リアルタイムに発したものが全てであり、「保存する」という概念がなかった。

②情報生成と解釈権の独占時代
象形文字と、それを刻む媒体(粘土や竹片、亀甲)が登場する。その所有権と解釈件は、支配階級(例:族長と占い師)が独占していた。

③情報を得る階級がきわめて限られた時代
紙が発明され、人類の記録の量が飛躍的に増えた。「情報」はかなり取り扱いやすくなったがそれでも一部の階級に限られていた。(想像では『源氏物語』は宮廷界隈で筆写で複製され、回し読みされた。同作には生霊の話が登場する。)

④複写手段~印刷機の登場
ヨーロッパの科学力が、中東~東洋に追いついてきた頃、「活版印刷機」が登場した。一夜にして歴史を塗り替えるということはなく、印刷機そのものが貴重で、国家君主か教会勢力の所有物だった。最初に印刷されたのは人類史上最大のベストセラー、聖書だった。

⑤情報が大衆のものになる
英国である新聞連載がはじまり、世間を大いに賑わせる。人間嫌いの名探偵の活躍を、活版印刷よりはるかに進化した輪転機が印刷し、市民の手にも安価に行き渡った。しかしこの時点でも「情報を発信」するのは人気作家、「連載再開を待ちわびる」のが消費者だった。

⑥情報の消費から情報の発信へ
そして今日、情報はスマートホンで(印刷せずに)読み、SNSを使って一般人が(ほぼ)コストをかけずに情報発信をすることも当たり前になった。大国の元首も一介の市民も、同じ手段を持つ時代になった。ブログの記事が面白く評判を集めると、「出版しませんか」と声がかかる時代だ―。


なんとなく感覚的に、「技術が進展する」 イコール 「非科学(たとえば占いや呪い)とは相容れない」と思っていた。
呪いとインターネットは相性がいい、という指摘は 「うーーーん!たしかに!」と唸ったくだりでした。

◆「情報」とはなにか

関連して思い出したのが、「情報とはなにか」という問いです。

Wikipediaによると、
「意味のあるデータの集まり。あるものごとの内容や事情についての知らせのこと。文字・数字などの記号やシンボルの媒体によって伝達され、受け手において、状況に対する知識をもたらしたり、適切な判断を助けたりするもののこと。生体が働くために用いられている指令や信号のこと。価値判断を除いて、量的な存在としてとらえたそれ。」

続いて「情報とは何かという問いに、ただひとつの答えを与えることは困難である」とあり、不特定多数の協力者の執筆ながら、謙虚な態度を感じます。

ひとつ思いついたのが、
五感、特に視覚から入ってくるのは情報である。触れるか何かして確認した瞬間に実体(非情報)になる
ということ。
情報と物体は途中で入れ替わる。または当事者にとっては実体、他者にとっては情報となる。
だから何の意味(価値)があるかわからないけども、情報というものが、かなり流動的な、ゆらぎのあるものだ、ということは認識しておいていいように思います。

2.AIの「価値」は、問題解決なのか?

◆ChatGPTは何が得意なのか

AIについては、「(たとえよくわからなくても)味見しておくか 敬遠するかで、仮定の将来が分岐していくもの」の筆頭だと考えています。「お金」「時間」と並ぶ可能性がある。

ChatGPTは「中央値」しか返せない。ドラえもんの出来杉くんのような、ちょっとつまらないぐらいに優等生的で真っ当な答えを返してくる。どちらにも偏らない、両方の意見を取り入れることで生み出されている(つまり「中央値」)。ということは、正規分布の真ん中にある情報を出力する仕事は、機械に仕事を奪われる可能性が高いということになる。

『#002  ChatGPTと戦いたくないなら中央値の戦場を避け、外れ値で戦おう』無料部分より要約

言われてみれば、ChatGPTに入力して返ってきた「大型連休におすすめの書籍」も「(架空の設定での)お詫び文章の見本」も、「なるほどそうだよな。参考にさせてもらいます、助かります」というものだった。
「え?なんで?ビックリ! ちょっと説明してよ」というものはなかった。

現時点で、ChatGPTのすぐに使えそうな用途としては、
・初動調査の範囲を絞り込む。ある程度絞ったところから始められる
・ゼロから考えて書き起こさなくていい。たたき台を作ってくれる
・最初からバランスの取れた項目を立てられる
つまり、「省力化」=人間が時間をかければある程度やれることをショートカットできる、「補正」=偏りを修正し、抜け漏れを防ぐ、といったことに向いているように思えます。


◆問題はつねに「いつ」だけである

では、ChatGPT(AI)を使わなくていい、大した役には立たないかというと、もちろんそうではない。
科学技術の歴史はいつだって、パイロット作が出てから実用化レベルになるまでの期間と、そこから機能や安全性が大きく伸長する(しかも安価になる)期間を比べたら、後半部分が圧倒的に短い。
この傾向は、近代、現代と時間を下るほどそうだし、物理的な製品よりも情報的なサービスにおいて起こりやすい。AIは両方の最新のケースです。くわえて、人間の技術者(だけ)でなくAI自身がセルフフィードバック機能をもって学習し強化するから、飛躍的に成長する。
(※将棋ソフトがわかりやすい例で、学生の頃(1995年頃)のそれは素人の私が勝てるぐらいの弱さだった。電王戦でソフト群がプロ棋士群に勝つまでわずか十数年だ。)

ChatGPTかどうかはわからないけど、AIが、少なくとも言語分析・情報再生産において、人間を完全に超える日はかならず(わりとすぐ)来るだろう。
優等生の中央値回答だけでなく、外れ値の回答も自在に加減して出せるようになる。シミュレーションの範囲(計算の探索経路)を広げるだけの資源があれば可能だからだ。

問題はつねに「それは、いつ現実になるのか」だけだ。

◆AIの価値は「問題解決」ではなく「感情処理」?

日本人にとってもっとも身近なAIといえば、山口さんの記事にも登場する「ドラえもん」だろう。のび太が困ると、状況に合致した道具を取り出して解説する。それを使ってのび太は問題に対処する。しかしどこかでやり過ぎるか裏目に出るかする。15分未満のエピソードの中に、失敗・副作用・考えさせる視点まで詰め込まれているのは、今考えるとなかなか奥が深い。

ドラえもんが道具を出す前にかならずやってるのが、「話を一通り聴いてあげる」だ。もしくは、「のび太はかならず 泣きついて愚痴を言う」ともいえる。AIの担う役割が、「問題解決」だけでなく、「感情処理」(感情労働)をも含むようになる、と思わせる。
※ドラえもんと似ているのが、スター・ウォーズのC3POで、「友だちの代替」か「専門機能の召使い」かの違いはあるけど、同じような役割を果たしている。ただし状況を聴いて(頼まれる前に)すぐ解決策を言おうとするので人間たちをカチンとこさせる。

外れ値=AIに出来なくて人間に出来ることってなんだろうと考えると、ひとつには「失敗すること」だ。「データを取るための計画的な失敗(パラメータ調節して実行)」ではなく、「予期せず失敗」する。または「前はうまく行ったのに失敗」する。慢心や、集中力の低下や、衰えることだ。
それと、「感情的になること」。怒る、悲しむ、落ち込む、精神的にダメージを受ける、憤る、逆上すること。子どもが別の子どもをいじめる。上司が部下を感情のはけ口にする。親が子を虐待する(その逆)。差別する。

ドラえもんは感情処理をも担っていたこと。人間に出来るのが「失敗する」「感情的になる」であること。これらから考えると、

  • AIはいずれ、慰め役はもちろん、「ランダムに失敗する」「ほどよく反抗する」「悲しむ傷つく」まで実装が求められる・ニーズもある

  • 一部の人々は、AIの利便性が向上してもなお、生身の人間を使用人として雇う。支配欲などの欲求を満たされる

という可能性を想像する。
山口さんの言葉を借りるなら、(用法は違うかもしれないけども)「役に立つ」だけでは満足しなくて「意味がある」「情緒的な不便さ」を求める、ということだ。
前出のC3POも、ロッキーがポーリーにプレゼントしたロボットも、この「感情処理の相手」を担っていると思う。

AIが進化するのを想定して、
(1)どのぐらいの頻度で、何に利活用するか、実験するか【AIとどう協調するか】
(2) AIの出来なそうなゾーンのどこを狙ってリソース投下するか【AIとどう差異化をはかるか】
については、もうすこし考える必要がある。

特に後者は、うっかりしてると いま考えている個人の仕事が稼げなくなる(AIに網羅され打ち消される。"中央値"に飲み込まれてしまう)ことにもつながるから、かなり重大なテーマです。



ちなみに「架空の謝罪メール」の質問で、「では、上司への謝罪メールの文案を考えてもらえますか?」と続けると、「もちろんです。状況によって微調整する必要がありますが、参考にしてください。」と、文案をすぐ送り返してくれた。Regenerate response で第二案、第三案ももらえる。
細かい話をすると、「尊敬する○○○○様」ではじまって「敬具」で終わってるから、英語のメールの日本語訳と、日本語の手紙の定型文とが混じって参照されているような印象も受ける。

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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