ミラノ風ドリアの呪い
「高校のときの友だちがさ、サイゼ行ったときわたしのマネをしてミラノ風ドリアに卵乗せたやつを頼んだんだけど、それからいつもそればかり頼んでて。本当つまんない女だなって」
というのを聞いたのは、大学生になったばかりのこと。
そのころのわたしは感受性がほわほわで、田舎から出てきたばかりの世間知らずで、それまでサイゼリヤというものに行ったことがなかった。だからそれを聞いたわたしは、どういうわけか「サイゼでミラノ風ドリアにたまごを乗せる人はつまらないんだ」と認識してしまい、ずっとミラノ風ドリアを頼むことができないまま、気づけば17年ほどの時間を重ねている。(それからも近所にサイゼがなかったので頼む機会がなかったのだけれど。)
そして、先日。
最近近所にサイゼがある生活が始まり、ファミレスというものは素晴らしいとようやく知ったのだ。
ファミリー向けとは言え平日の昼間はそこまで騒がしくないから仕事を黙々とする分にはとてもいい環境で、昼のピークが落ち着くころに訪れてはごはんとドリンクバーを頼んで日が暮れるまで作業する。それが週に1度の楽しみにすらなっている。
そしてわたしは先日、ついにミラノ風ドリアというものを頼んでみることができたのだ。
卵よりもチーズが好きなので、チーズたっぷりのミラノ風ドリア。お値段400円。
安い。そしておいしい。え、待って、おいしすぎない? あっつあつのドリア。ホワイトソースとごはんのバランスがちょうどよくて、ミートソースのトマトの酸味とホワイトソースのまろやかさも絶妙。そして食べ終わるまでしっかりチーズが伸びる保温性。なにこれ、めちゃくちゃおいしいじゃん。
黙々と食べていく中で思い出していたのは、冒頭の話とその話をした大学の同級生のことだった。彼女はわたしにたくさんの呪いをかけていった。いや、わたしが勝手にかかっていただけなのかもしれないけれど。
ねえ、こんなにおいしいならあなたのマネをしてもしていなくても、何度も食べたくなるわよ。好きなものを頼んで何がいけないのかしら。今のあなたなら、そう思ったりしないかな。するかな。まあ別にどっちでもいいけど。二度と会うことないし。
そんなことを心の中でだけつぶやく。
ああ、ぺろりと平らげてしまった。次来たらまた頼もうかな……でも他のメニューも気になるし。まあいいか、わたしはわたしの好きなものを好きなように食べる。それでいい。何度も同じものを頼むのがつまらなくても別に過去のあなたには何の関係もないんだから。
さよなら呪い。
わたしはわたしが好きなものを好きに食べるから、もうほっといてくれ。
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