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「青春18きっぷ」で1泊2日 中国地方ローカル線乗りつぶしの旅(2日目)

4時にセットしていたスマホのアラームが鳴った。ホテルの窓のカーテンから新見の町を見るが、まだ夜明け前で、駅だけが明かるかった。今日は、未乗線区の中で在来線では最も長い姫新線を制覇するつもりだ。この路線は芸備線と対をなすように、兵庫県の姫路から岡山県の山間部を抜け、新見に至る路線だが、運転系統が細かく分かれているため、素直に乗り通すことが難しい。姫路から攻めるか、中間地点の津山から行ったり来たりするか、できれば津山から伸びる因美線の未乗区間と、その因美線から分かれる若桜鉄道も一手に片付けたい。それらの条件を1日で全てクリアするには、新見を4時51分に出る始発で出るしかなさそうだった。

新見駅の2番線に、2両編成のディーゼルカーが入ってきた。乗り込んだのは私一人だけ。向こうにある伯備線のホームには、始発を待つ10人ほどの人影が見える。

運転士が無線で何やらやり取りをすると、こちらを振り返って「お客さんはどちらまで行かれますか?」と聞いてくる。「終着の中国勝山まで行って、接続の列車で津山へ行きます」と言うと、「実は中国勝山駅で信号機故障が発生しまして、ちょっといつ復旧するか分からないんです」と運転士は説明する。少し待ったが、結局この列車は運休することが決まった。「津山へ行かれるんでしたら、岡山経由で津山線に乗ってください」と、申し訳なさそうに運転士が言う。「青春18きっぷの旅なので、大丈夫ですよ」と私は答えた。

平静を装って再び改札口に戻り、駅に置いてある時刻表をめくる。まず、運転士にすすめられた津山線経由を検討する。これから行くならば伯備線の2番列車だ。しかしこれは岡山駅と津山駅で接続があまりよくないため、結局、因美線の残存未乗区間と姫新線の津山から姫路までだけしか乗れない。思い切って伯備線で米子まで出て、山陰本線で日本海側から鳥取に回り込むのはどうか。これも米子での接続がイマイチで、結局岡山経由と結果は変わらない。

もう一度岡山経由を確認しようとしたとき、一つの可能性をひらめいた。この伯備線の2番列車は倉敷で山陽本線に入ると、そのまま岡山を越えて兵庫県の相生まで直通する。この相生の手前にある上郡から、第三セクターの智頭急行が分岐している。この路線は京阪神や岡山から鳥取へ行く特急列車が多数通る路線で、終点の智頭から因美線に直通している。伯備線2番列車が上郡に着くのが8時42分。ここで、京阪神方面からやってくる特急スーパーはくと1号を捕まえることができる。このスーパーはくと1号が若桜鉄道との乗換駅である郡家に着くのは10時2分で、本来乗る予定だった若桜鉄道の列車にここで間に合う。青春18きっぷは特急などに乗れないので、この区間だけ智頭急行とJRの乗車券に加えて特急券も必要になるが、この出費は仕方ない。

伯備線ホームで2番列車を待ちながら、缶コーヒーを空けた。朝から頭を使ったせいか、眠気はなくさえている。ただし、この次善策でも姫新線の新見から津山の間は、今回あきらめなければならない。久しぶりに飲む缶コーヒーは、複雑な味がした。伯備線の2番列車が出発。井倉のあたりは石灰岩の鉱山があり、朝靄の渓谷の中を抜けていく。備中川面(びっちゅうかわも)、備中高梁(びっちゅうたかはし)、美袋(みなぎ)、日羽(びわ)、豪渓(ごうけい)と、電車は読み方は難しいがいい名前の駅に止まっていく。

伯備線の車窓

次第に岡山へ通勤する客で電車は混雑しだして、そのまま山陽本線を走り抜けて上郡着。乗り換えたスーパーはくと1号は帰省客で混雑していた。智頭急行線に入ると、一気に速度を上げる。この列車は振り子式なので、カーブに差し掛かると内側に傾く。通路を歩く人が千鳥足のようになる。ここまでずっと鈍行列車にばかり乗ってきたからか、流れる車窓は動画を倍速で見ているようだ。

あっという間に智頭急行線の区間を抜けて、郡家に到着。構内踏切を渡ると、若桜鉄道のディーゼルカーが発車を待っていた。車内は木目調で、ソファーのような座席もある。ここでも往復乗れば110円安くなるというフリー切符を購入。途中の隼、安倍など、古い駅舎がそのまま残っている駅や果樹園の中を抜けて、終点の若桜駅に到着。ここも古民家カフェのようにおしゃれに改装されて、待合室ではやっぱりカフェも営業していた。

若桜駅の待合室からホームを眺める

折り返しまでの1時間ほど、若桜の街並みを散策し、観光物産館で名物の焼き鯖寿司を買って、車内で食べる。郡家に戻り、20分ほどの接続時間で智頭行きの普通列車に乗り込む。ここからやっと、当初の旅程に戻り、18きっぷの旅を再開。智頭で因美線の津山行きに乗り換えた。ここから先の区間も本数が少なく、昼間に走る貴重な列車だ。ゆっくりと山を越えて、加茂川に沿って津山盆地に入り、東津山から姫新線を一駅。終着の津山に着いた。

ここで小休止して、今来た道を戻る形で姫新線で姫路へ下っていくが、一筋縄ではいかない。車内は空調が効いていなく、うちわを仰ぎながらしのぐ。ずっと窓の外には中国自動車道が並走していて、津山の駅前でも京阪神へ行く高速バスに行列ができていたことを思い出す。

山を一つ越えて、また小盆地に入り、佐用には15時30分に着いた。ここは朝に乗った智頭急行との乗換駅で、15時36分発の上郡行に乗り換える客も多い。会社は違うのになかなかの好接続だが、同じ会社・路線であるはずの姫新線は50分待ち。幸い、駅の待合室は空調が効いていた。

姫新線のディーゼルカー

次に乗るのは播磨新宮行きで、終着の播磨新宮で姫路行きに乗り換えることになる。播磨新宮での乗り継ぎはそこまで待たされないが、津山から姫路まで、所要時間の3分の1くらいは乗り換え待ちの時間が占めている。日が傾き始めた田園地帯を抜けて、播磨新宮に着く。「電車来たで」という高校生の言葉遣いに、ここがもう関西圏なのだと気付く。

姫路で4分接続の新快速にぎりぎりで乗り込むと、一気にくたびれた。車内の案内表示を見ると、台風の影響で新幹線のダイヤは乱れているが、一応動いているようだ。予定通りこのまま新快速で京都まで行き、そこから新幹線で今日中に東京へ帰ることができそうだ。

姫新線を半分残すことにはなったが、吉備線、井原鉄道、福塩線、若桜鉄道、因美線(智頭-東津山)、姫新線(津山-姫路)の未乗線区を乗りつぶすことができ充実感がある。残存率は3.9%となった。

夕日が沈む明石海峡を横目に、うつらうつら。

〇今回の2日間の旅程

・1日目
東京7:42→岡山11:02 のぞみ81号
岡山11:12→総社11:48
総社12:06→神辺13:02
神辺13:06→福山13:18
福山14:13→府中14:55
府中15:05→三次16:52
三次17:30→備後落合18:46
備後落合20:12→新見21:36

・2日目

新見6:08→上郡8:42
上郡9:02→郡家10:02 特急スーパーはくと1号
郡家10:06→若桜10:38
若桜11:23→郡家11:57
郡家12:17→智頭12:48
智頭12:54→津山14:03
津山14:33→佐用15:30
佐用16:21→播磨新宮16:50
播磨新宮17:06→姫路17:37
姫路17:41→京都19:14 新快速
京都19:48→東京21:59 のぞみ178号

※本来の予定
新見4:51→中国勝山5:38 快速
中国勝山5:56→津山6:44
津山6:47→智頭7:55
智頭8:26→鳥取9:20
鳥取9:45→若桜10:38
…以下、同じ

旅行後の未乗線区一覧


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