見出し画像

古くて新しい鯛めし問題「鯛樹」浜松町

自粛生活から開けて、私を待ち受けていたのは酷暑だった。

暑い。とにかく暑い。正気の沙汰とは思えない気候の中をマスクを付けて出勤の毎日。一体世の中はどうなってしまったのか。これはもう一大ブームといっていい。そう、苦行ブームの到来である。

しかし、そんな中でもゆっくりと着実に飲食店にひとが戻ってきている(ところもある)。

浜松町北口近くの鯛樹。ランチに宇和島風の鯛めしが楽しめる、人気店である。

ここで改めて「鯛めし」とは何を指すものかが問題になるだろう。

粋な和食の割烹などで「鯛めし」といえば、土鍋にパンサイズより少し大きい天然鯛を丸ごとご飯と炊き込んだ、鯛の炊き込みご飯を指すのが普通だ。鯛の身をほぐしてご飯と一緒にお椀に盛り付け、仕上げに木の芽をポンとたたいて乗せる。香り立つ、ぜいたくな鯛の身としっかりとした昆布だしの利いたご飯の取り合わせ。シンプルな吸い物と一緒に頂くと、魅惑的な〆ご飯となること請け合い。いつか行きたい和食割烹、給与明細とともにわが手をじっと見る…

しかし、ランチで供される鯛樹の宇和島風鯛めしは、大振りな鯛の刺身を生卵と出汁醤油を掻き混ぜたものにさっとくぐらせ、熱々のご飯にかけていただく、いわゆる漁師飯のようなもの。一昔前なら新橋辺りで人知れず働き盛りの男たちの腹を満たした秘境のグルメだったはず。…が、今ではどちらかというとこちらが東京の「鯛めし」のメインストリームとなりつつある。

加齢により、いまでは土鍋の炊き込みご飯の旨さが身に染みるようになったが、時流には逆らえない。

卵と出汁醤油のジャンクな味付けに、淡白な白身の鯛刺がよく合う。玉子ごと熱々ご飯にどっぷり刺身をかけると、あとはするする啜るだけ。椀一杯があっという間になくなってしまう。なるほど、ランチには最適の食べ物だ。鯛めしは大人の素敵な飲みものです。

この近隣には鯛樹のほか、接待御用達の「濱壹」、などなど、宇和島や四国にまつわる飲食店が多い、何かのつながりがあるのだろうか。謎は深まるばかり。

しかし、お客を選びそうな宇和島の鯛めしにご年配の二人客が並んで待っているのを見ると、セブンイレブン方式、向こう三軒両隣に漁師町のアナーキーな和食店が並んでいる土地柄はある意味地域の強みとなっているようだ。リピーターも相当いるようである。

子供のころ、刺身を熱々ご飯に「乗っけて」食べるなと怒られた記憶があるが…時代は変わる。そして、旨いものは美味い。

鯛樹から大門方向に歩いて大通りを西側に渡るとやはり土佐高知の皿鉢料理の店だとか、昔ながらの東京のマグロ刺しが名物の居酒屋なども軒を並べる。

普段からあまり気にも留めていなかったが、刺身天国浜松町。暑さをものともせずに分厚い刺身に舌鼓を打てば…今日も生ビールがきゅーっと美味い。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?