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プロ野球半券ノスタルジア⑧                   真夏の球宴・都市対抗応援席の異様な盛り上がり

 都市対抗野球は日本アマチュア野球の最高峰を決める大会といわれる。ただトシタイコーといっても、野球好きでなければピンとこないかもしれない。これが説明するのが非常にややこしいのだが、社会人野球の日本一を決める大会は別に秋に行われる社会人野球日本選手権というのがあって、それとは別に日本の各都市を代表したチームが、日本一をかけて戦う。メジャーリーグが都市に根差したフランチャイズ制を採用しているのにヒントを得て発案された、現在のNPBの起源である職業野球の発足より前の1927年から行われている歴史ある大会だ。


 今回ご紹介するのは2008年第79回大会のチーム券。デザイン的にはアマチュア野球の常備券というのはどういうわけか、プロよりも小さいサイズが多いのだが、このチケットもサイズは一回り小さい。大会の象徴、獅子のエンブレムと、前年(2007年)橋戸賞(MVP)の東芝・磯村秀人の写真が入った、まとまったデザインだ。使用したのは決勝戦、2008年9月9の新日本石油ENEOS対王子製紙の試合だ。

 試合を振り返る前に、都市対抗について若干の説明を。
 まず「チーム券」とはなんなのか。これは出場チームが主催の毎日新聞社から買い取ったチケットで応援に来た人に配布される。本来は出場するチーム、ほとんどは企業チームだからその社員や関係者、さらに都市対抗野球の精神に則り、出場都市の関係者などに、配られるものだ。会場は東京ドームで、通常なら内野の一般有料入場(特別席)は2400円、外野席でも950円するのだが、チーム券を貰えばタダで応援席に入れる。
 しかもただ野球が見れるだけでなく、応援用のうちわ、選手一覧が貰えるのはマスト。チームによっては襟巻型の応援タオルや、弁当代ということなのか東京ドームで使用可能な1000円分の商品券が貰えたことがあった。

 このチーム券については毎日新聞も日本野球連盟も詳細なアナウンスがなく、チーム関係者や、出場都市の関係者ではなく、応援を目的としている人が貰って入場できるのかどうか定かではない。もちろんタオルとか商品券とかいただいたりすると、気が咎めないこともないが、チーム券をもらった以上、うちわを叩いて、拍手もして応援するわけだし、これまで入場口で厳密な関係者審査があったこともない。スタンドに閑古鳥が鳴くよりはいいはずだ。(※チームによっては関係者にしかチーム券を配らないケースもある)

 チーム券では好きな席に座ることはできず、入場した順番で応援席に着席していく。周りは背広姿の会社帰りや、待ち合わせた親子連れ、自作ボードをもったOLなど関係者ばかりになる。 聞き耳を立てると客席のあちこちで、「あ、もしもし。○○(子どもの名前)ママいる。代わって。ウン。…アッ、ママ。今日ね野球の応援だから。お弁当食べてるからゴハンいらない。9時過ぎには帰れるから」とか、「もしもし。○○(同僚)。今日来んの。ああ、あっそう。でも、ピッチャー良いから展開早そうだよ。8時頃には終わっちゃうかもよ。先に一杯やってるから。着いたら連絡して」みたいな電話でのやり取りに出くわす。

 都市対抗は野球の勝敗だけでなく、応援合戦も審査の対象なので、応援団も気合が入る。一応、都市対抗なので郷土色をアピールする。HONDAなら狭山なので、お茶缶の格好をした応援団がうろうろしたり、JX-ENEOSならエネゴリ君の着ぐるみが来たり、かつては東芝の応援に一社提供だったサザエさんの着ぐるみが登場したりしていた。

 しかもプロ野球や高校野球とは違い、試合の進行に関係なく、鳴り物&スピーカーでガーガー応援し続ける。ベンチ上のステージには、チアリーダーが舞い、揃いのユニフォームの男子応援団が声を張り上げる、通路にも応援団が配置され、声を出すように促される。加えてスピーカーからは女性リーダーのハスキーボイスで応援歌をがなりたてる。

 また動員されている応援団の皆さんも、ボランタリーで応援してるプロ野球とは違い、金払って通ってる学校を応援する学生野球とも異なり、働いて金をもらってる自分の人生の一部である会社ということで、応援の仕方、結果への対応が明らかに違う。ショボイ内野安打でも、四球でも、親族が金メダルをとったときのような喜びよう。つられてうちわを振って、歌を歌ってしまう。かつてコストカッターのゴーンさんが日産野球部の都市対抗の応援を見て、グループの一体感を守るため野球部の存続を決めたのにも納得した(結局、廃部したが)。

 で、今回のチケットの試合。

・2008年9月9日 第79回都市対抗野球決勝 東京ドーム
新日本石油ENEOS(横浜市) 300 000 100…4
王子製紙(春日井市)    010 000 000…1
(新日本)清見、廣瀬、〇田澤ー山岡
(王子)●蓬莱、小町、奥村、児玉ー川上

 決勝の新日本石油ENEOS対王子製紙、否、横浜市対春日井市をチーム券をいただきENEOS=横浜市側で観戦した。始球式は、なんと白鵬と「日本一決定戦」らしい人選。BSの生中継も入っており、CMでおなじみエネゴリ君も登場し、応援は盛り上がった。大企業らしいさすがの動員力で、ゲーム中盤には2階席まで応援団が陣取った。8回からはこの年の秋のNPBのドラフトを拒否し、レッドソックスと契約すると噂されていた田沢純一が登板した。2回2/3を投げ、無安打無失点、4奪三振。先発して6回を投げた前日からの連投ながら、力のあるところを見せた。ただ実際に見た印象としては、あまり力感が感じられず、この投手がメジャーリーグに行くのかと思ったのを覚えている。結局、ENEOS=横浜市が優勝。元近鉄で大東めぐみのダンナ、大久保秀昭監督はこの大会が指導者として都市対抗初優勝。優勝インタビューでは男泣きしていた。

 都市対抗は「真夏の球宴」と称され親しまれている、と主催新聞社は言う。しかしこの半券の試合の当時すでに関係者による、関係者のための大会になっていた。高校野球の都道府県予選の結果を気にする人は多くいるが、自分の住む都市の代表チームが都市対抗で勝ったのかどうか、気にする人は皆無だろう。都市対抗という理念は悪くない。どうにかこの大会にテコ入れし、地方における野球の感心拡大につなげられないのかと考えてしまう。 

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