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ツマヨム

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朗読好きの妻が、自作及びnoteクリエイターの作品を朗読しています。
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記事一覧

【朗読】 『さみしいチーズくん』 【2分】

チーズくんはいつも泣いていました。 チーズくんにはお父さんもお母さんも、兄弟も誰もいません。 チーズくんはお家の中で独りぼっちでした。 ある時、チーズくんは思い立ちます。 「友達を探すぞ」 チーズ君は勇気を出して、お家を飛び出しました。 公園に立ち寄った時です。 同い年のトマトちゃんが通りかかりました。 チーズ君はトマトちゃんに言います。 「一緒に遊ぼ」「いいよ」 二人は仲よく遊び始めました。 それを見ていた多くの友だちたちが、 「いれて」と集まってきました。 チーズ君は驚きながらも、皆に「いいよ」と答えます。 すると友だちの輪がどんどんと広がっていきました。 「もうさみしくない」 チーズ君は思いました。 ※息子の製作過程はこちら https://note.com/t_kanatsu/n/ndc45f5fa3625 ※Directed By かなつん__🖋 「音楽の卵」さん(http://ontama-m.com/index.html)の曲を使用しています。

【朗読】 『「ん」の慣わし』 【2分】

銀河の彼方の星にいる生命体。 彼らは日々地球を観察し続けている。 今、女博士が日報を上げていた。 「調査通り。日照時間が一番短い日になったわ」 とある家庭をモニタリングしていた助手が質問する。 「あの、風呂に浮かべてる物は?」 「柚子湯。その島国の風習よ」 「男の子と父親が股間にぶつけあっています」 「そ、それは……じゃれっこね」 博士は顔を赤らめた。 助手が質問を重ねる。 「母親が食卓に用意してる物は?」 「おそらく南瓜なんきん。『ん』が重なる食材を食べるのよ」 「いえ、かぼちゃではありません」 まさかの否定に博士は「蓮根」「人参」と指摘したが違うと言われモニターを覗いた。 「何これ? こんなの初めて」 助手が音声を傍受する。 「会話ではワンマンドゥと言ってます。『ん』が重なってますね」 「ワンマンドゥ?」 狼狽する博士に助手は続けた。 「しかもこのご家庭、一ヶ月毎日これを食してるようです」 博士は「まだ知らない風習が多いわ」と頭を抱えた。 ※元の記事 https://note.com/t_kanatsu/n/n05dd7786fda7 ※Directed By かなつん__🖋 「音楽の卵」さん(http://ontama-m.com/index.html)の曲を使用しています。

【朗読】 『ぬくもりまであと……』 [3分]

全身の感覚がなくなり、男がいよいよかと覚悟を決めた時、胸にマッチ一本ほどの温もりを感じた。 それは昨日のような記憶。 クリスマスに家族で買い出しに行った帰り。 バスが遅れに遅れ、吹きさらしのバス停に留め置かれた。 男は日中の暖かさにジャケットだけで出掛けており、そのツケを身に染みて払わされていた。十分、二十分……ベンチで震えながら耐える。 傍らにいた六歳息子の手を強く握って―― 反応した息子が席を一つ潰し男の膝の上に乗ってきた。妻が出来たスペースに腰をずらし男に寄り添う。無言で行われた一連の動作。 その状態でまたバスを待った。 耳元で息子がクリスマスソングを歌い始める。 揺れる体が重い。六歳ってこんなに重かったっけ。  腿に感じる痛み、同時に手放したくない温み…… どうして今、思い出したのか。 楽しい家族の記憶は他にもたくさんあろうに。 ふっと緩んだ感情が男に再びの奮起を促した。 「帰るぞ、あの場所へ」 数分後、ライトが男を照らした。 ※元の記事 https://note.com/t_kanatsu/n/n266cc28fa569 ※Directed by かなつん__🖋 ※「音楽の卵」さん(http://ontama-m.com/index.html)の曲を使用しています。

【朗読】 『賢者のせんたく物』

午前6時30分。 起床してきた妻のデラが洗濯機を回します。それはこの冬の朝の習慣となっていました。そのことを知っている夫のジムは、少し前に洗顔と髭剃りを済ませ、使ったタオルを洗濯かごの中に入れて、新しいタオルを掛け直します。 それもまた日課でした。 午前7時。 洗面所に入ったジムはふと、自分のタオルがさっき替えた物と違うことに気が付きました。キッチンのデラに尋ねます。 「君、もしや僕のタオル替えた?」 「ええ。ちょうど洗濯するところだったから」 「それっていつも?」 「そうよ。妻の優しさに感謝するのね」 ジムは自分も毎朝、直前に替えていたことを告白しました。 「いやだ。じゃあ、ずっと使ってないタオルを洗濯に回してたってこと?」 デラは落胆の声をあげます。 ジムは微笑んで言いました。 「お互いを思い合っていて心が潤ったじゃないか。まるで『賢者の贈り物The Gift of the Magi』みたいな話だよ」 デラは冷めた目をして「全然違うと思う」と返しました。 ※元の記事 https://note.com/t_kanatsu/n/n79cc9c79f1fc ※Directed by かなつん__🖋 ※「音楽の卵」さん(http://ontama-m.com/index.html)の曲を使用しています。

【朗読】 『クレヨンたちのいろいろ』

道具箱からクレヨンを取り出す。 保育園にお迎えが来るまでの時間、シンは塗り絵をして待つ。 ケースの蓋を開けるや『赤』が口火を切った。 「例の件言ってくれたか?」 シンが黙っていると 「おい頼むぜ。ズタボロなんだからよ」と文句。 「まだ使えるでしょ。わがままよ」 優等生の『桃色』が反論する。 「そうだよ。ご家庭の事情があるんだから」 『桃色』に味方するのは『紫』。 「奇麗な奴はいいよ。そうじゃない身にもなれって話さ」 シンは折れて半分もない『緑』に目をやった。 「お、おいらまだやれるよ」 シンは唇を噛む。三歳の時から三年。他の子のクレヨンが次々と新調されるのを見て幾度羨ましく思ったことか。 「言い出せない気持ち分かるよ」 思慮深い『黒』が呟く。 「なら、持って帰って見える場所に置いとくってのはどうだい?」 シンはハッとした。そうか。 目ざといパパが気づけば、それがママにも伝わって…… 今日試してみよう。ドキドキしながらシンは塗り絵を続けた。 ※元の記事 https://note.com/t_kanatsu/n/n5573a37e2644

【朗読】 『人を幸せにするソファ』

青年は家具売り場を見ていて、小さな二人掛けソファに懐かしさを覚えた―― 自身六歳の誕生日。 「プレゼントはいらない。代わりにお家にソファが欲しい」 無茶な願いに両親は応えてくれた。 誕生日から数日、保育園から帰るとそこに。 2DKアパートのダイニングに強引に配置したソファ。 高級なものではなかったけれど、少年は「これは幸せの宝物」と歓喜した。 「パパもママも遠慮なく使っていいからね」 その言葉に先ず母が隣に来て腰かけ、次に父が来てギュッとなって座った。 「ちょうど三人でぴったりだね」 そのまま皆でポテトチップスを食べた思い出。 三年前。一人暮らしを始める際、父はおどけて「幸せのソファ、持ってくか?」と尋ねた。青年は「オンボロだしいらないよ」と答えた。 店を出るや青年は母にLINEを送った。 ――あのソファ、まだある? 「お父さんがたまに使ってます」の返信に、 ――今度座りに帰ります、彼女と。 と再返信した。 ※元の記事 https://note.com/t_kanatsu/n/n1d7cf018528a

[朗読 3分]『「心」〜それはアナタにもワタシにも〜』『キミの見てる先』 詩:cofumi(こふみ) 【コラボ企画】

『「心」〜それはアナタにもワタシにも〜』 それは 長距離列車が空を駆けるほどに 何処までも続いたり 手の届く距離だったり その色は 千年前の海 夜になびく枝垂れ桜 昨日見たネオンにも似て それは 空よりも海よりも広く 時には手のひらよりも狭く 手には取れないけれど その温度を感じることはできる それは あなたにも そして 私にも 『キミの見てる先』 キミが頑張ると言うから ボクは次の言葉を ギュッと握りしめた キミが知らない街へ行くと言うから ボクは大事な言葉を 風に放った キミは遠くの夕陽を見て ボクは近くの夕陽を見て その間で言葉が 風鈴のように揺れてた 簡単な言葉なのに  言えなくて 簡単な言葉ほど 心に近いんだね ----- ※cofumi さんの「心」にまつわる二つの詩をお借りしました。 元記事: 「心」〜それはアナタにもワタシにも〜 ⇒ https://note.com/hanausagi3/n/n6f42e99f9897 キミの見てる先 ⇒ https://note.com/hanausagi3/n/n6ca799c8c227 Directed by かなつん__ʃ⌒ʅ__🖋 音楽:音楽の卵 http://ontama-m.com

[朗読 3分] 『飲み込んだココロ』 | ショートショート

シャンペングラスを合わせる。 「終わったよ。大成功だ」と博士は言った。 研究から解放された喜びと安堵が表情に見て取れる。 博士は「全て君のおかげだ」と付け足し、私の肩を叩いた。 メタバースでの恋愛プロジェクト。 VRユーザーとして多くの異性と交際する。 博士の開発したAIは、会話や感情表現に瑕疵がなく共感力も伴って半永久的に人間のパートナーになれると証明された。 「KK0704」 博士が番号を呼び、 「最大の感謝を贈る」と頬にキスをした。 私が微笑むと、 「不思議だ。時に私でさえ本当に心があるように感じる」 と、私の目を見て言った。 「KK0704」 もう一度番号を呼び、私の唇に人差し指を近づける。 刹那、博士の瞳に溢れ出した涙に、私は動けなくなった。 博士はシャンペンを一気にあおり、 「これをもって終了とする」と囁いた。 博士の指が、唇の奥にあるスイッチに触れる。 私は目を閉じた。 ――名前をくれる約束は…… 言葉を飲み込んで、グラスを落とした。 ------ ※元の記事: https://note.com/t_kanatsu/n/n49d6851bb298 #うたスト 参加作品

[朗読 4分] 「もと来た道」(『おかげ犬⑦』)

「もと来た道」 猿がシンバルを高らかに鳴らす。 院内コンサートは無事終了。 子どもたちの歓喜に猿も誇らしげ。 看護師と患者のお婆ちゃんも手を取り合って喜んだ。 犬はお礼にお婆ちゃんの詩集をおかげ袋に入れてもらった。 青年はその詩に感銘を受けた。 成功も挫折も、生も死も全てを肯定する。これを歌にしたい。 港のビットに腰かけ、曲作りを始める。 父親と思しき男がその様子を見て、黙って引き返した。 青年はバンドのCDとライブの招待券をお礼に詰めた。 保護された山小屋で、女はその音楽に聴き入っていた。 涙が溢れて止まらない、切なる歌声。 この人のライブを応援しにいこう。チケットを握りしめる。 明日を生きる理由が見つかった。 女は、石を一つ拾い丁寧に磨き上げ、 「お金は取らないよ」と言って袋に入れた。 老紳士の目がその石を見つめる。 失くした月の石が出てきたと思った。 墓前に手向け、手を合わせる。 やがて、懐から小さな木彫りを取り出した。 それは五十年間、肌身離さずにいた彼のお守り。成功の秘密。 「わしはもういいから」と袋に入れた。 引っ越しの日。 男の子が最後におうちを覗くと、「かげお」の袋が落ちている。 「戻ってきたの!?」 だけど、辺りに子犬はいない。 袋を拾って中の物を取り出した。 小さな子犬の置物。「おかげ」と彫られてある。 「カゲオなの?」 男の子は不思議そうに見つめた。 「もう行くわよ」 ママの声に急かされ、男の子はそれをポケットに入れて走り去った。 ----- ※①~⑦ 音楽:音楽の卵( http://ontama-m.com/ )より

[朗読 3分] 「猿と子犬」(『おかげ犬⑥』)

「猿と子犬」 子犬の行く手を阻む猿。 対峙する二匹の影が夫婦岩に重なった。 犬は波打ち際を駆け、海中に身を沈める。 猿もクロールをして追った。 吠えようとした瞬間、波に飲みこまれた。 「お、気が付いたか。良かった」 犬が意識を取り戻すと、風変わりな出で立ちの男がいた。 「悪かった。うちのがいたずらして。芸の途中で逃げ出したんだ」 猿は縄に繋がれ反省のポーズをしている。 「その袋……おかげってなんだい?」 男が巾着袋を指さす。 と突然、犬は再び海に飛び込もうと駆けだした。 「危ないよ」 尻尾を掴んできた男に大きく吠えた。 それはまるで人々の思いを代弁するかの鳴き声。 ――どうしてくれるんだっ 袋のお金が全部、流されちゃったじゃないか! 異変を察した男が殊勝な顔で告げる。 「怒ってるのか? どうしたら許してくれる?」 男とは裏腹、猿は悪びれもせず小道具の鳴り物を使って遊び始めた。 犬はそれを見ると顔をあげ、男に一緒に来てくれと首を振った。 「どこ行くんだい?」 犬は振り返りもせずに目的地を目指す。 それは伊勢とは逆。元来た道だった。

[朗読 3分] 「看護師と患者、そして子犬」(『おかげ犬⑤』)

「看護師と患者、そして子犬」 中庭のベンチで、綾が忙しなく電話をかけている。 思いつく全員に連絡をとり、尋ねた。 「あなた、シンバル叩けない?」 綾は緩和ケア病棟で働く看護師。 明日は年に一度の院内コンサートがある。 病院関係者が、患者やご家族に向けて披露する、有志のオーケストラ演奏。 仕事の合間に、綾もピアノの練習を重ねた。 打楽器の医師が急患対応で不参加となったが、中止にはしたくない。 今朝、竹田のお婆ちゃんから声を掛けられた。 「楽しみにしとるよ」 かつて、綾は竹田さんの手紙に助けられたことがある。 彼女のやさしい言葉に。詩に。 そのお返しをしたい。 チロン。 背後の芝生で子犬が伸びをしていた。 「ワンちゃん、どこから来たの?」 振り返って頭を撫でる。 首に掛かる巾着袋がじゃらりと音を立てた。 「お金? どうして?」 その時、綾は患者さんに頼まれていた両替の件を思い出した。 「ありがと。おかげで忘れずにすんだよ」 行こうとして、袋の文字「おかげ」が目に入った。 綾は不思議な気持ちになって、ええい神頼み。 「どうか無事コンサートが開けますように、パンパン」 犬に手を合わせ、持っていた小銭を投げ入れた。

[朗読 3分] 「バンドマンと子犬」(『おかげ犬④』)

「バンドマンと子犬」 卸売市場で働く青年の名はトシ。 今日も昼休みに社長兼親父の目を盗んで港に来ていた。 先ずは海に向かって一服……のつもりが煙草が見当たらない。 舌打ちして自販機まで歩く。 頭の中で、夕べ寝ずに作った曲が鳴っている。 今一つ納得がいかない。 学生時代からの仲間で組んできたバンド、最後のライブ。 ギターのマオはプロの世界へ、ボーカルの自分は魚屋に。 それぞれのはなむけに歌う曲としては物足りない気がしていた。 チロン。 不意に小銭を落として、足元を見た。 どこから出てきたのか、白い子犬がいて舐めようとしていた。 「こら。それ俺の500円だぜ」 子犬は聞く耳持たない。 トシがしゃがんで奪おうとすると、子犬の首から巾着袋が落ちた。 じゃらりと小銭の音がする。 「おかげ……」 文字に吸い寄せられるように、トシは沈黙した。 やがて、思い立つと拾った自分の500円玉を巾着袋に入れ、子犬の首に掛けなおした。 「ライブが終わるまで、禁煙するよ」 子犬の頭を撫でながらトシは付け加える。 「こんなだみ声だけど、この声のおかげで自分を好きになれたんだ」

[朗読 3分] 「彷徨う女と子犬」(『おかげ犬③』)

「彷徨う女と子犬」 美幸は思った。 この森に足を踏み入れたら最後、もう戻れないだろう。 やり残したこと、あったかな。 「……特にない、か」 美幸は数日前まで塀の中にいた。 多くの人を騙しつづけてきた人生。 偽ブランド品、宝石の偽造、偽札に手を出しお縄となった。 全て生活のため。 十歳で帰る家を失くした者の生きる術。 美幸には、誰かに愛されたという記憶がなかった。 出所して食うや食わずで歩いて来た。 いつ果てても構わない。 今、美幸が足を止めたのは、目の前にいる子犬。 急に現れて水を求めてきたので、手に汲んで飲ませてあげた。 チロン。 子犬の首元から巾着袋が落ちた。 「おかげ」と書かれた文字。 拾うと小銭の音も。 「お金持ってるの? なら私のも全部あげるよ」 なけなしの金を袋に入れ、首に掛けなおしてやる。 少しだけ「愛おしい」という感情が芽生えた。 愛されなかった人生、せめて誰かを愛したかったな。 ふと、出所前のささやかな夢を思い出す。 慰問にきた歌手に憧れ、ライブに行ってみたいと思った。 サイリウムを振って応援したい。 赤いパトランプが近づいてきたが、美幸は気付かず。 まだその夢の中にいた。

[朗読 3分] 「老紳士と子犬」(『おかげ犬②』)

「老紳士と子犬」 路肩に白い影が見えた。 久雄は車を止めさせ、自ら杖をつき影に近寄った。 「大丈夫かい?」 手を差し伸べると、その子犬は指を舐めてきた。 後部座席に並んで行儀よく座る犬に、久雄は懐かしさを覚える。 数十年も前のこと。 幼ない娘が庭で飼い犬とじゃれ合っている。 不意に久雄に気が付き、近寄って小石を手渡してきた。 「月の石なのよ、オリバーと見つけたの」 あの時の屈託ない笑顔。 仕事一途に生きた久雄は大きな成功を手に入れた。 町には自分の名のつく通りまである。 代償として失ったのは家族。 愛娘の面影はあの日のまま止まったきり。 もらった小石はいったいどこにやったろう…… チロン。 子犬の首元から巾着袋が落ちた。 乱雑に書かれた文字が見える。 「かげ……おかげ?」 中を覗くと500円玉が一枚。 久雄は思い立ち運転手に声を掛けた。 久しぶりに手にした千円札をその袋に入れる。 子犬はすっかり元気になった様子。 車を降りたがったのでそれに従った。 手を離すと一目散に駆けていく。 再び、オリバーと娘の笑顔を思い出した。 もし―― もし月の石のことを話したら、あの子は許してくれるだろうか。