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子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記

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2017年に指定難病「皮膚筋炎」翌年「間質性肺炎」と連続して発病し3年間入退院を繰り返してきました。気持ちの整理がついた今、入院中にしたためていた日記を再構成して文章にしていこう… もっと読む
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子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記1「突然の宣告」

入院初日。 医師から今後の治療方針のあれやこれやの説明を受けている最中、突然目の前が真っ暗になった。意識消失。ブラックアウト。人生の暗転……    * 病気のこと(特定疾患)。 入院期間の長さ(最短でも2か月!)。 お金のこと(いくらかかるの?)。 仕事のこと(フリーランスなのに)。 なによりほんの3か月前に生まれた息子と妻のこと(育児は? 生活は?) それらを考えたらパニックになったのかもしれない。精神的容量オーバー。現状を受け入れ前を向いてやっていくしかないのは分

「子供のことを思う」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記2

某月某日 入院生活と言えど、土日は検査もなく、暇な時間が流れる。 両腕はまだパンパンに腫れている。熱と痛みと、隣人のいびきと、いろいろと考えてしまう自分の性格が災いして、はっきり寝不足。朝からぼーっとしている。筋力低下も激しく、立ち上がるのもおっくう。 気持ちだけでもしっかりしないと……。 どうにか奮い立たせて、気分転換にとロビーに出た。    * 頭の中に、思い出がよみがえる。 3か月前、フロアは違えど、この同じ病院のロビーで私は人生最高の瞬間の場面に遭遇してい

「お金の心配」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記3

某月某日 一週間が経った。検査やらなんやらであっという間に過ぎた。入院生活に馴染んできてる順応力に驚く。      * その検査。胃カメラを飲むのもオエエ~となって非常に苦しかったけど、針を筋肉に刺してグリグリする筋電図とかいう検査が激痛で、思わず妻の名前を叫んじゃった。恥ずかしいったらありゃしない。 やっかいだったのはMRI検査。結婚指輪がどうしても外れない。引っ張ったりねじったりしても関節より上がらない。筋炎によるむくみもあるので当然なんだけど。結婚式で永遠の愛を

「家族の見舞い」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記4

某月某日 エンドキサンパルス(点滴治療)をした次の日は、全身がけだるい。何もする気がおきず、日がな一日ぼんやりと過ごす。   昼前に実家の母からのメール。 どこで知り得たのか、飲料用の「奇跡の水」を取り寄せたので送るという。一瞬血の気が引いたが、聞けば「500ml一本150円くらい」だというので、素直にありがとうと伝える。 時を同じくして、妻からもメール。 昨日、じいじのお家で(今、妻は実家に帰って生活をしている)、息子の生後100日「お食い初め」の儀式をお祝いしたという

「副作用」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記5

「ひやっ!」 ウォシュレットが「最強」になっていて、思わず腰を浮かした。 自分の不注意にハッとなる。今までこんなことなかった。どちらかというと慎重なタイプ。何度も石橋を叩いて渡らない男だ。ウォシュレットテロの被害にあったことなど一度もない。 なのに……。 気持ちの問題かそれとも……。ベッドサイドに置いてある薬袋を手に取る。今、飲んでいる薬一覧。 プレドニン(ステロイド・80mg) プログラフ(免疫抑制剤・4錠) ダイフェン配合錠(肺炎予防) カルフィーナ(カルシウムを補

「ナースコール」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記6

「オムツを交換しましょうね」 不意に看護師さんがカーテンを開けた。きょとんとする私。 「あ、ごめんなさい。間違えちゃったっ」 この少しおっちょこちょいな看護師さん(謝ってばかりいるのでペコちゃん)には、とてもお世話になっている。性格がおっとり型なので、私的には落ち着けていいのだが、人によってはイライラさせちゃうことも多そう。 「ナースコールしてんだから早く来てくれよっ」 「食事を下げろよっ。もう寝る時間だろ!」 よく、患者さんにどやされてる。 「ごめんなさい。お待

「院内コンサート」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記7

某月某日。 月替わり。今朝も採血からスタート。週2回の血液検査ももう慣れた。サッと皮膚を撫でられたかと思ったらもう終わりました、みたいな神レベルの看護師さんがいる一方、今日の看護学生? は「見えづらいよー」と言って左右ともに失敗し、手の甲から採血していった。逆に難しくないかい?    * 同室患者の咳き込みに敏感になる。こっちは肺炎にはなれない身。必要以上に風邪には注意しなければならない。ベッドの上でもマスクをして過ごす。    * 抜歯の跡が痛く、鎮痛剤を頻繁に所

「父と息子 ★ロマンティックじじいの背中(前半)」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記8

某月某日 「雨は嫌い。でも、雨の音は好き」 学生時代の初恋の人が言ってたことと同じ言葉を聞いたのは、向かいのカーテンの向こう。ロマンティック爺(じじい)のベッドからだ。 ロマンティック爺(CV:緒方賢一さん)は憎めない愛されキャラの患者。オープンな性格で、寝るとき以外、仕切りのカーテンは全開。「閉めきられちゃうと息が出来ない」らしい。看護師でも患者でも面会人でも、目の前を通る人には分け隔てなく声をかける社交性抜群の御仁。 私は断固プライベート空間を大事にする人間なので

「父と息子 ★ロマンティックじじいの背中(後半)」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記9

(前半からのつづき) その日は、不肖、私の結婚記念日で、午前中から生後4か月になった息子を連れて妻がお見舞いに来てくれていた。 1ヵ月ぶりの再会。泣きもせずパパの膝上で小一時間ほど戯れてくれた。途中ブリブリとうんちもして……。この生命力の塊のような存在にパワーをもらった。 家族と別れて病室に戻ると、いつも開いているカーテンが閉められ、その中からヒソヒソと話すロマ爺の声が聞こえた。 「ちゃんと仕事してんだったら安心だよ」 「へへ。今はネットビジネスもやってるからよ」

「入院食のすゝめ」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記10

某月某日 昼食の焼きそばが喉にひっかかり、むせてしまう。嚥下障害と言うらしい。飲み込む筋力まで落ちている。 朗報は、プレドニンが65mgに減ったこと。40mgぐらいになったときが退院のタイミングだと言われたが、果たしていつなのか……。    * 本日も美男子の理学療法士(斎藤工と命名)さんとリハビリ。 日常生活でも立ったりしゃがんだりが大変ということで、練習用の浴槽を使っての練習。 「普段通りに入ってみてください」と言われ、着ている病衣を脱ごうとして止められる。 「

「人生のどん底で"蜜蜂と遠雷"」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記11

某月某日 (妻との電話での会話から) ……もしもし? 聞こえる? ごめんね。声がもう、ほとんど出なくなっちゃった……いや、原因は分からないって。ステロイドのせいかもしれないし……精神的かもしれないし……聞きづらいよね? ……大丈夫。痛みはないよ……で、今いい? ○○(息子の名)は寝た? ……そう。……え? 電池切れそう? ああ、じゃあちょっとだけ。 ……今、ある本を一冊読み終わって、で、すごい興奮というか、こんなのめったにないっていうか……人生でもしかしたら、1番か

「メンタル」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記12

ふざけんな! この野郎! 畜生っ!  怒りボルテージがMAX。なんでこんなに怒っているのか? 自分が自分でないようだ。でも積もり積もって抑えられないこの感情。 昨日のエンドキサンパルスの後遺症か? 皮膚筋炎による、指のささくれが痛むからか? 朝、隣の親父から「目覚めっ屁」をかまされたからか? 同室のジジイがさっきからずっとケータイで喋ってるからか? ジジイは夕べも、イヤホンせず音ダダ洩れでテレビを見てたよね? 看護学生が採血したけど量が足りなくて、やり直しになったからか?

「退院」~子供が産まれたと同時に難病になった喜劇作家の入院日記13

某月某日 退院前日の朝。ここ一週間ほど考えていたことを実行に移す。 ――病院脱走計画。 3ヵ月弱に及ぶ入院生活。自分でいうのもなんだけど優等生な患者であった。消灯時間(夜9時!)の10分前には自ら電気を消し、起床時間(朝6時)の30分前には起きて、その日飲む薬を自ら準備する。 コレステロール値が高いと言われれば、飲むもの全てお茶か水にし、自主的な歩行訓練を勧められたら、朝昼晩と病院内を歩いた。 そんな優等生が起こす卒業間近の小さな校則違反。病院内の窓ガラスを叩き割っ

難病になった喜劇作家の"再"入院日記1「再燃」

某月某日 皮膚筋炎が再燃した。 診断を聞いた瞬間、足元の床が抜けすーっと真っ暗な奈落に落ちていく。 正直、直近2カ月ずっと調子が悪かった。嫌な咳き込み。体が重い。続く微熱。鎮痛剤が手放せない。 一回目の、あのときのあの感じと似てる…… 不安は常に脳裏をよぎっていたが「再燃」とは結びつけたくなかった。 月一の血液検査ではまだ炎症反応は出ていなかったし、徐々にプレドニン(ステロイド)量も減って(8mg)、寛解に進んでいると信じていた。 仕事においても。 前回の退院からリハ