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[朗読 4分] 「もと来た道」(『おかげ犬⑦』)

【ツマヨム】妻が自作の物語を朗読してくれました。【創作大賞素材】
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「もと来た道」

猿がシンバルを高らかに鳴らす。
院内コンサートは無事終了。
子どもたちの歓喜に猿も誇らしげ。
看護師と患者のお婆ちゃんも手を取り合って喜んだ。
犬はお礼にお婆ちゃんの詩集をおかげ袋に入れてもらった。

青年はその詩に感銘を受けた。
成功も挫折も、生も死も全てを肯定する。これを歌にしたい。
港のビットに腰かけ、曲作りを始める。
父親と思しき男がその様子を見て、黙って引き返した。
青年はバンドのCDとライブの招待券をお礼に詰めた。

保護された山小屋で、女はその音楽に聴き入っていた。
涙が溢れて止まらない、切なる歌声。
この人のライブを応援しにいこう。チケットを握りしめる。
明日を生きる理由が見つかった。
女は、石を一つ拾い丁寧に磨き上げ、
「お金は取らないよ」と言って袋に入れた。

老紳士の目がその石を見つめる。
失くした月の石が出てきたと思った。
墓前に手向け、手を合わせる。
やがて、懐から小さな木彫りを取り出した。
それは五十年間、肌身離さずにいた彼のお守り。成功の秘密。
「わしはもういいから」と袋に入れた。

引っ越しの日。
男の子が最後におうちを覗くと、「かげお」の袋が落ちている。
「戻ってきたの!?」 だけど、辺りに子犬はいない。
袋を拾って中の物を取り出した。
小さな子犬の置物。「おかげ」と彫られてある。
「カゲオなの?」 男の子は不思議そうに見つめた。
「もう行くわよ」
ママの声に急かされ、男の子はそれをポケットに入れて走り去った。


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※①~⑦
音楽:音楽の卵( http://ontama-m.com/ )より

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