クライマーの肩のケア

 クライミングにおける肩関節の障害発生の頻度は、クライミングによる怪我の全体の約17.2%を占めているそうです。多いですね。
  高所からの転落による外傷もありますが、慢性的なオーバーユースによる障害では「腱板損傷」「インピンジメント症候群」「上腕二頭筋腱障害」「スラップ損傷」が挙げられるそうです。
   Comprehensive review of rock climbing injuries. June 15 , 2020 より

 また、5年以上のクライミング経験を持ち、肩関節に症状の無いクライマーを50名集め、MRIで肩関節の検査を行った研究がありました。 Shoulder pathology on magnetic resonance imaging in asymptomatic elite level rock climbing. 2022より
 この報告では、約80%の肩に腱板損傷を認めたそうです。細かい内訳では、棘上筋は全症例、棘下筋は58%、肩甲下筋は18%に損傷を認めています。この内数%は断裂していました。
 上腕二頭筋腱炎は73%、滑液包炎は79%と、こちらも非常に多くなっています。
     この方々は、症状がないですが、画像上は損傷があったんです。

 肩関節を痛めた場合、非症候性(画像状の所見があるが症状はない)と症候性(所見も症状もある)に分けられ、非症候性を目指していくことが治療の目標になります。
 オーバーヘッドスポーツであり、体を支える大部分に貢献するのは上肢ですから、痛めやすいのも頷けます。
 実際、私も自分の肩をエコーで見てみると傷んでいますが、症状は全くありません。

 今回は「腱板損傷」のケアについてお伝えします。病院で検査を行い「腱が痛んでいますね」と言われたとします。

 基本的に一度傷ついた腱板は、その組織の回復を目標にはしません。組織が痛んでいる状態であっても、その部位へかかるストレスを減少することができれば症状は消失することが多いです(中には症状のコントロールが難しいケースもありますが)。

 ここでKey pointになるのは「腱板」の役割です。

 そもそも肩関節の「腱板」は、肩関節を安定させる役割を担う組織の一つです。肩関節は構造的には不安定ですので、そのままではすぐにズレてしまいます。これを防いでいる組織の一つが腱板です。「メカノレセプター」「固有受容器」というセンサーにより微細な安定化を作り上げています。

 腱板が痛む原因の一つは、「肩甲骨の動きの硬さ」「胸郭の動きの硬さ」です。これらが柔軟性を失うことで、構造上不安定な肩関節は過剰に動く必要が出てしまいます。これを止めたい「腱板」ですが、願いは叶わず、骨同士で発生する摩擦により痛んでしまいます・・・。

 ということですので、腱板損傷の場合は肩関節をたくさんストレッチしてしまうと、痛みが強くなる場合があります。なぜなら既に過剰な動きが生じているので。

 肩関節に過剰な動きをさせないような身体環境にすることで、腱板へのストレスを回避し症状を消失させる。というのが目標になります。(これ以外にも、喫煙や生活習慣病の有無で症状のコントロールが難しくなるケースもあります)

 とにかく「胸郭と肩甲骨の自由度を高めて、肩甲骨と胸郭の安定性も高める」ことが重要です。

 ここで、「胸郭と肩甲骨の自由度」を阻害し、クライマーは特に硬くなりやすい筋肉といえば、広背筋です。

 広背筋については、クライマーの方はほとんどが知っていると思います。この筋肉は「引く」ことに関しては非常に大きな役割を持ちますが、硬い状態になってしまうことで、肩甲骨が上方に回旋する動きを阻害します。この動きは、単純に手を上げる動きに必要ですし、ガストンなんかでも重要になります。(ナタリア・グロスマン選手や野口啓代選手はめっちゃ柔らかいように見えますよね) 
 また、広背筋は腰部から広く起始しますので、体幹部の動きも制限します。特に上位肋骨を下方に回旋させてしまう特徴もありますので、柔らかくしておきたいですね。

 

広背筋のストレッチは、動画のような方法が一般的になります。

もちろん肩甲骨や胸郭の自由度は広背筋だけが要因ではありませんし、常日頃から仕事の影響やクセで巻き肩のような姿勢の方は、日常的にしっかり伸ばすことが大事です。
 痛みがある場合は病院でしっかり検査してもらってください。

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