ノーベル経済学賞の虚像(続)

昨日の投稿「ノーベル経済学賞の虚像」で書いたように、アルフレッド・ノーベルは遺言書で、ノーベル賞の対象者を「人類のために最も偉大な貢献をした人」としています。物理学をはじめとする自然科学であれば、ノーベルのいう「偉大な貢献」は具体的にイメージがわきます。

たとえば第1回物理学賞を受賞したレントゲンはX線を発見し、医療や工業の発展に大きく貢献しました。同じく物理学賞を共同受賞した赤崎勇、天野浩、中村修二の3氏が発明した青色発光ダイオード(LED)は、照明や携帯電話用バックライト、大型ディスプレイなど幅広く実用化されています。

これに対し、経済学はどうでしょう。ノーベル経済学賞を受けた経済学者たちのおかげで労働者の生活が楽になったとか、株や土地の資産バブルを防ぐことができたとか、貧困を減らすことができたとかいう話は聞いたことがありません。

それどころか、100年に1度といわれた2008年のリーマン・ショックやその後の世界的な金融危機を事前に予測した経済学者は、ほとんどいませんでした。

1997年に経済学賞を共同受賞したマイロン・ショールズとロバート・マートンの両氏が経営にかかわった投資ファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)は、同年発生したアジア通貨危機による市場の変化を読み誤り、破綻しました。

1980年受賞のローレンス・クラインは、およそ3000もの方程式で構成されるとてつもなく複雑なモデルを構築。受賞講演でこのモデルに基づく長期予測を披露し、米国で石油価格が上昇し、インフレが続き、財政・貿易収支が赤字から均衡に向かうと予想しましたが、ことごとく外れてしまいました(カリアー『ノーベル経済学賞の40年〈上〉』)。

ノーベル賞経済学者のすべてが駄目だというわけではありません。現代の主流経済学が自然科学のうわべだけを模倣した「見せかけの知」でしかないと批判したハイエク(1974年受賞)は、例外の一人でしょう。

『ブラック・スワン』の著者、ナシム・ニコラス・タレブ氏はフィナンシャル・タイムズへの寄稿("The pseudo-science hurting markets")で、ハイエクと同様に、市場の現実と合わない擬似科学のような理論に経済学賞が濫発され、それに対する批判がノーベル賞の権威で阻害されると批判しています。

今年のノーベル経済学賞は、権威に見合った内容になるのでしょうか。

http://booklog.jp/item/1/4480015566

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