社会主義は救世主か

英国で空前の社会主義ブームが巻き起こっています。最大野党労働党のジェレミー・コービン党首の支持率はメイ首相の保守党と逆転し、次期首相の座も現実味を帯びてきたようです。

コービン氏は行く先々でロックスターのような歓迎を受け、若年層の圧倒的な支持を集めています。今月初めの日経電子版によれば、イニシャルの「J・C」にちなみコービン氏を「ジーザス・クライスト(イエス・キリスト)」とまで呼ぶ支持者もいるというから驚きます。

英国は金融危機後の格差拡大や緊縮財政を背景に、中低所得層の不満が蓄積しているといいます。けれども、英国であれ他のどの国であれ、社会主義は救世主にはなりえません。

今年はマルクスの主著『資本論』第1巻刊行から150年、レーニンが率いたロシア革命から100年にあたります。世界で社会主義の誤りをあらためて記憶に刻む好機のはずです。ところが英国の熱狂的なコービン人気が示すように、社会主義の誤りは忘れられ、むしろ美化が進もうとしています。

マルクスは『資本論』で、あらゆる価値は労働者が生み出すという「労働価値説」をもとに、利潤はすべて資本家による労働者の搾取から生まれると主張しました。

労働価値説は、近代経済学の父といわれる英国のアダム・スミスも信じていた説です。けれどもその後、誤りだとわかりました。同じ労働力をかけて作った製品でも市場で価値が異なる事実を説明できないからです。

しかしマルクスは誤った労働価値説をもとに『資本論』第1巻を書き、その後、考えが行き詰まったのか、なかなか続きを出さないまま死んでしまいました。第2巻、第3巻はマルクスの死後、遺稿をもとに盟友エンゲルスが編集・刊行したものです。

土台から間違ったマルクスの経済学は、現実を説明できなくなります。マルクスの思想をロシア革命で実現しようとしたレーニンですら、各国で資本家が労働者を搾取するという考えは誤りだと認めました。工業国の多くで労働者の生活水準が向上する事実に反したからです。

社会主義はかつて民衆を熱狂させ、その民衆を苦しめて終わりました。歴史の悲劇を繰り返さないためには、熱狂でなく理性が必要です。

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFK30H08_Q7A930C1000000/

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