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小説 ノウズ (後編)

代官山の美容師さんとCGクリエイター達のお話しの後編になります。前編を読んで頂きありがとうございます。
 甘井萌乃( あまい もの )



第6章 コロナレンダラー

2020年3月15日(日)
毎年3月15日は確定申告の締め切り日。私が独立して9年間ずっとこの日だったのに、今年は延びた。新型コロナウイルスのせいだ。経営者になってからは確定申告が、私の一番のストレスだった。けれど、今年は違う。一番のストレスは新型コロナウイルスになったのだ。世界中が苦しんでいる。世界中の人がはじめての経験をしている。どう過ごせばいいのか、先が見えない。何も見えない。ストレスしかない。お客さん達も、髪を切りに行っていいのか判断に迷っている。私自身も大きな声で来店してくださいと言っても良いのか、それを避けるべきなのかもわからなくなっている。

私はお店の掃除をする事にした。
沢山の不用品を捨て、沢山の物に感謝をした。雑巾で棚を水ぶきし、美容室にある一つ一つを手に取り磨いた。その時、なぜか3Dのモデリングやマテリアルを考えていた私がいた。この形はモデリングしやすいな、とか、この質感はどう表すのだろう。それを考えている間はとても楽しかった。
きっと、このコロナ禍の今も、CGクリエイター達は頑張って作品を作っているに違いない。今、引きこもっている世界中の人々は、エンタメがある事でなんとか過ごせている。そう、ネット配信で過去の映画が沢山視聴でき、これだけが唯一の娯楽なのだ。映画、アニメ、漫画、音楽、アート。クリエイティブは本当にすごい。
私は、CGクリエイターの脳内の映像を覗きたい欲求がおさえられなくなっていた。いつからだろう、最近はずっと彼らの脳内に興味を持ち始めていた。この欲求不満状態をどう解消して良いかわからなかったので、気晴らしが必要だと感じた。
気分転換、気分転換。そうだ、気分転換なら映画鑑賞だ。

『ビックゴリラ』を、みていなかった。
ネット配信ではまだ上映されていない為、DVDを購入した。

DVDのケースの裏面には、こう記載されていた。

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