My Bloody Valentine "Loveless"とシューゲイザーについて

シューゲイザーというロックのジャンルが出てきてから、もう30年以上になる。「ニューゲイザー」だってもう20年以上になる。

シューゲイザーというジャンルの成り立ちを説明しておこう。もう知っている人は読み飛ばしてください。

1985年、スコットランド出身のジーザス&メリー・チェインというバンドがデビューした。ファーストアルバムまでの彼らのスタイルは、60年代ポップスのメロディを、異常なノイズとともに放り出す、というものだった。音楽に全く関係なくミックスされたノイズは、なぜだか心地よいものだった。
とはいえ、メリー・チェインはメロディ+ノイズ一辺倒だったわけではない。ファーストアルバム1曲目「ジャスト・ライク・ハニー」は、ロネッツ「ビー・マイ・ベイビー」のドラムパターンにけだるい声、白昼夢的な音像で、それまでのシングル「アップサイド・ダウン」や「ネヴァー・アンダースタンド」とは雰囲気が違った。

メリー・チェインに影響されたバンドは上記のような特質のミックス、あるいは折衷案、発展形を提出した。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは異常なノイズによる「ユー・メイド・ミー・リアライズ」で名を上げ、ファーストアルバムでは不思議なギターサウンドを詰め込んだ、不思議でノイジーな楽曲群を披露した。
ライドはけたたましいギターに手数の多いドラムで、よりアドレッセンスな雰囲気でデビューした。メンバーのルックスもよくて、ちょっとアイドル的な感じもあった。
ペイル・セインツは一聴すると心地よいものの、どこか不安定な雰囲気を持っていた。「サイト・オブ・ユー」は必聴だ。
こうやって出てきたバンド群に、メディアはシューゲイズという名前をつけて無理やりムーヴメントにした。「シューゲイズ(Shoegaze、靴を見つめるの意)」というのは、ムースというバンドのヴォーカルが、ステージの床に歌詞を書いた紙を張り付けて、下を見ながら演奏していたことに由来する。

前置きが長くなった。マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン「ラヴレス」である。このアルバムは今でもシューゲイザーの最高峰の座に輝いている。

なにせ、バックグラウンドがすごい。レコーディングに巨額の費用がかかり、所属レーベルがメジャーに身売りする原因となったとか、スタジオ代未払いのために録音したテープを差し押さえられてしまい、盗み出しに行ったとか、逸話がてんこ盛りだ。

「ラヴレス」のすごさは、様々なロック/ポップスの要素が取り上げられ、彼ら独自のサウンドプロダクションによって無二の存在になっているということだ。
例えば「ウェン・ユー・スリープ」。この曲は印象的なリフが特に耳に残るが、歌のメロディはまさに60年代の甘いポップスだ。少年ナイフのカヴァーを聴けばわかる。
「スーン」には(当時の)コンテンポラリーなダンス・ビートが取り入れられた。「トゥ・ヒア・ノウズ・ウェン」では、ギターの音がまるでクジラの鳴き声のように聞こえる。アルバム中、最もアンビエント・ミュージックに接近した曲だ。
「サムタイムス」はエレキギターによるSSW的弾き語り、といった風情を持っている。ニール・ヤングふうのアプローチでも聴いてみたい曲だと、個人的に思っている。

そして1曲目「オンリー・シャロウ」。歌メロよりはるかにインパクトのあるリフ、この音の塊で攻めてくる感じは、大滝詠一「君は天然色」のイントロにも通じる、独自の「音の壁」だ。

肝心のアルバムの紹介が短くなってしまいました。まあ本当に聞いてみないと、なので興味のある人は聞いてみてください。

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