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あんたの格好

もう24〜25年ほど前になります。
春ながらまだ寒い日で、駅のホームで友人と2人。他にも電車待ちの客がチラホラ。

その駅は少し特殊で、駅のホームはカーブに沿って建っている為、上り下りの視界はどちらか片側しか見えません。特急や急行が停まらない停車駅のため、やって来る電車を待っている状態でした。

しばらく友人と話をしていると、目の端、電車だと最後尾の位置に立っていた女の人が、こちらに向かって物凄い速さで走ってきました。

タッタッタッタッタッタッタッタッタッ

靴音を小気味好く響かせて走ってきたその人は、突然、私と友人のいる数メートル前で線路に向かってピョン!とグリコのゴールのような見事なバンザイのポーズでホームから飛び降りたのです。

「あっ!!危ない!!」

そう言ってすぐ私も女性の降りたホームに助け起こそうと飛び出したら

「何やってんの?!」

友人が腕を掴んで私を留めてくれた途端、目の前を特急がゴォーッッ!とすごい速さで過ぎていきました。

真っ青な顔の友人に、「何飛び出してんの?!死ぬ気か?!」と怒鳴られた。
「いや、今目の前で女の人がホームに飛び出したから止めようと」と言うと「誰もおらへんよ」と友人。

そんなことはない!と私が見た女の人の格好を伝えたのです。赤いコート着て、ジーンズにショートブーツで、髪は肩までのソバージュで…

「それ、あんたの格好やん」

あっ!と声を出してようやく自分の格好を見ました。駅員さんが1人、何事かと出てきたので、事情を説明したら

「怪我がなくてよかったです。気をつけてくださいね」と言った後、

「昨日も男性が同じこと言ってたので本当に気をつけてくださいね」

駅は、ホームだけでなく、すぐ横の踏切も飛び込みの事故が多く、幽霊を見た、という噂も囁かれるところです。女の人の格好思い出していたのですが、どうしても顔が思い出せない。

顔が思い出せないのに、飛び込む前にこちらに向けていた顔の口元は歯並びがわかるくらい満面の笑みだったんです。

驚かす意味合いはなかったとはいえ、駅員さんが放った一言と、あの時友人が止めてくれなかったら…そんなことを今も考えます。

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