カラス

文章を書くのは好きなんですが、物語を作るのが下手くそです。 読後感のよくないものばかり…

カラス

文章を書くのは好きなんですが、物語を作るのが下手くそです。 読後感のよくないものばかりですが、コメントなどいただけると大変うれしいです。

最近の記事

【短編小説】はじめてのおくりもの(6/6)

 その場所に到着した時、ボクは心底ホッとした。  そこは、見慣れた我が家だった。  警察官たちは、パトカーでボクを家まで送り届けてくれたのだ。  ボクはホッとしながらも、花束がないことに心底ガッカリした。  せっかく栞に会えるのに、誕生日のプレゼントがないなんて。  はじめての、プレゼントだったのに。  言い訳じみてるけど、栞に会ったらまず謝らなきゃ。  プレゼントの花束を用意してたんだけど、どこかでなくしちゃったんだ、って。  でも、おかしいな。  パトカーの後部座席でもぞ

    • 【短編小説】はじめてのおくりもの(5/6)

       眩い朝の陽射しが乱暴にボクの眠りを引き裂いた。心地よい目覚めとは言えなかったが、特に不満はなかった。  ボクは、低血圧ではないので、朝には強いんだ。  目が覚めた瞬間は自分がどこにいるのかわからなくなったけど、埃くさい臭いや、腕に当たるごわごわしたペロの毛の感触で、ボクは自分が河川敷の捨てられた軽自動車の中で一晩寝ていたことを思い出した。 「おはよう」  隣で丸まっているペロの背中を撫でながら、そう声をかけた。  ペロは、片目だけを器用に開けてボクをじろりと眺め、ぜいぜいと

      • 【短編小説】はじめてのおくりもの(4/6)

         花とその香りに囲まれた、こじんまりとした店内。  ボクは、カウンターの向こうからこちらを眺める女性店員にまず訊いた。 「ここ、犬を連れても大丈夫ですか」 「構いませんよ。何かお探しですか?」  感じのよい中年女性は、にっこりと微笑みながらボクに問いかけた。  丁寧すぎるその口調が少し気になったけど、とにかく感じがよかったので、ボクはついつい答えてしまった。ホントはお店の人との会話ってものすごく苦手なんだけど。 「プレゼントしようと思って」 「いいですね。どなたに贈られるんで

        • 【短編小説】はじめてのおくりもの(3/6)

           この夏の最高気温を更新。  毎日流されるニュースの中で、毎日そういっている気がする。  額から頬を伝って顎の先端に落ちていく汗の玉を、手の甲で拭う。  どれくらい歩いただろうか。  息が乱れているような気もするけど、一休みなんてしたくはなかった。  とにかく早く、栞に会わなくちゃ。  そして、誕生日のお祝いをいわなくちゃ。  栞の嬉しそうな笑顔を想像するだけで、疲れなんて飛んでいく気がする。  けど、そんなボクの足に、なにかモジャモジャしたものがドンとぶつかった。  なんだ

        【短編小説】はじめてのおくりもの(6/6)

          【短編小説】はじめてのおくりもの(2/6)

           ワン、なんて軽やかに鳴いてくれれば親しみも持てそうなのに、そいつはどこか濁った瞳で、胡散臭そうに、そして面倒臭そうに、無言のままボクを訝しげに見上げていた。 「じゃ、お気をつけて」  そういうと、オバサンはそそくさとその場を離れていった。  あとには、ボクとそいつだけが残された。  とりあえず、しゃがんでみた。  茶色い、モジャモジャ。というか、ボサボサ。潤いもしなやかさもなく、見る者をもれなくみすぼらしい気持ちにさせてしまう種類の、それは毛並みだった。  犬だね。  誰に

          【短編小説】はじめてのおくりもの(2/6)

          【短編小説】はじめてのおくりもの(1/6)

           ねっとりとした熱気が、ボクを包んでいた。  風もなく、灼熱のアスファルトから立ち上がってくる不快な上昇気流を、やむなく吸い込むことしかできなかった。  なんていうか、こめかみの辺りをガツンと殴られたみたいな、そんな暑さだった。  やれやれ。  ボクは照れ隠しみたいに、少し俯いて首を左右に振ってみた。ちょっとしたアピールみたいなもんだよ。別に、誰に見られてるわけでもないのにね。  まいったな。  一文字ずつ固い石に刻み込むみたいに、ボクは頭の中でつぶやいた。実際、まいってたん

          【短編小説】はじめてのおくりもの(1/6)

          ショートショート「寄星虫」

          「ねえ、ママー」  その男の子は、図鑑を見ながら甘えた声を上げた。 「キセイチュウってなあにー?」  幼児が読むには厚くて高価すぎるその図鑑を買ったのは祖父母だった。  子どもの教育に効果があると思って祖父母に買わせるよう誘導したのは母親だったが、今となっては子どもが読むたびに繰り出してくる「なあに?」攻撃にうんざりし、図鑑を買わせたことを後悔していた。  今も、息子の声が聞こえてはいたが、あわよくば無視してるうちに気が逸れないかと思いながら、テレビから目を離さずに

          ショートショート「寄星虫」

          自己紹介

          「キミの足音はもう聴こえない」 1 2 3 4 「空気に何が書いてある」 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 「寄星虫」

          自己紹介

          【短編小説】空気に何が書いてある(10/10)

          「空気を読めない人間は教科書だって読めなくていいって、みんながボクの教科書を破るの」  いくら動機がないからって、一度でも失敗してしまえば次はない。  一度で確実に。  でも、殺鼠剤が多すぎては匂いや味で簡単に老婆に気付かれてしまう。  必要最低限の量を見極めなければならない。  でも、どうやって? 「帰ろうと思ったら、下駄箱の靴がなくなってるの。学校中のゴミ箱を探しても、どこにもないの」  そうだ。  突然、女は閃いた。  身近にいるじゃないか。うってつけ

          【短編小説】空気に何が書いてある(10/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(9/10)

           空気を読めない人間は、「悪」だ。  法律的な話ではなく、社会的に「悪」なのだ。  そして女は思い出す。  キッチンの戸棚の奥に置いたままの、瓶に半分残った殺鼠剤の存在を。  私が空気を読むのだ。  脳裏に閃いた。天啓のごとく。  ハトのように、カラスのように、ネコのように、排除するのだ。老婆を。  でも、どうやって。玄関の前にウインナーを置いても仕方ない。  いや、確か、老婆は毎日弁当を宅配してもらっているようだ。そこに殺鼠剤を仕込めばいい。  デイサービ

          【短編小説】空気に何が書いてある(9/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(8/10)

           翌日の目覚めはさらに爽やかだった。  人生最高の朝だったかもしれない。  自分のなしたことの結果が待ちきれない。  夫はすでに出勤していた。息子と義母はまだ寝ているようだ。手早く着替え、女はメイクもしないままで外へ出た。  ポンプ室と表示された素っ気ないコンクリ造りの立方体の建屋。4階の老婆はここでネコに餌やりをしている。女は昨夜、ここに殺鼠剤を入れたウインナーを置いた。  そして今、女の足元には、親子かもしれない黒いネコの死体が二体横たわっていた。  やった。

          【短編小説】空気に何が書いてある(8/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(7/10)

           静かな朝を、女は迎えた。  ここ最近では経験したことのないほどの穏やかな朝だ。  すでに夫は一人で食事を済ませ、出勤している。  女は夫によってカーテンの開けられていた窓から階下を望む。  そこには、普段であれば騒音の元となっていた何十羽ものハトやカラスが羽を広げて地面に横たわっていた。  死んでいる。  達成感のようなものが、女の中でゾクゾクと駆け巡った。  可燃ゴミ回収の日だったその朝は、ゴミ集積所でその話題がひそひそと飛び交った。 「鳥インフルか何かじ

          【短編小説】空気に何が書いてある(7/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(6/10)

          「……ただいま」  その日の息子の声は沈んでいた。  女は、そんな息子の不調を、手作りのパンケーキを二口しか食べようとしなかったことで、ようやく気付いた。パンケーキといっても、市販のホットケーキの素を薄めて焼いたものでしかなかったが。 「どうしたの? おなか痛いの?」 「ねえ、ママ……」  息子は、眉間に皺を寄せながら女に向かってつぶやいた。 「空気には、何か書いてあるの?」 「空気?」 「ボクね、空気を読めないんだって。空気って、何が書いてあるの? 誰でも読

          【短編小説】空気に何が書いてある(6/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(5/10)

          「最近は、ネコに夢中なんだって」  ママ友の一人が、顔をしかめながらそう言った。  郵便受けのあるエレベーターホールで、女は同じマンションに住む二人のママ友といわゆる井戸端会議をしていた。 「そんなの、前からじゃない。あのババアがネコに餌やってるのなんて」  もう一人のママ友が応える。息子と同級生の子どもを持つママ友だが、不妊治療の結果45歳で出来た子どもらしく、女とは15歳以上年が離れていた。そんな人間がババアと口汚く罵るさまは醜悪でしかなかった。 「そうなんだけ

          【短編小説】空気に何が書いてある(5/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(4/10)

           介護は追い詰められる。  特に血が繋がっているわけでもない義母の介護など、どこにどうモチベーションを置けばいいのかわからない。  楽しいことなど何一つなく、それでいて責任と重圧は途方もない。  昼間、ちょっとうとうとしていただけで、おむつを汚した義母から悲鳴のような叱責を受ける。  ほっと一息つく余裕すらない。  こんなことになるとは、女は想定していなかった。  週に一度は外食に行き、月に一度はエステに行き、年に一回は家族三人で一泊旅行くらいは行けると思っていた

          【短編小説】空気に何が書いてある(4/10)

          【短編小説】空気に何が書いてある(3/10)

          「ねえ、ママー」  息子はうれしそうにスプーンでプリンをすくいながら、甲高い声を響かせた。 「今日ね、みんなでアポロくんをシカトしたんだよー」  女は思わず自分のこめかみを指で強めに押した。  息子の同級生にアポロという名前の子どもがいるのは知っていた。確か、「宇宙」と書いて「アポロ」と読ませていた。キラキラネームだかなんだかわからないが、同じ親として、品格を疑いたくなる。本当に子どもの将来を考えて名付けているのだろうか?  ただ、それはそれ。今は我が子への教育とし

          【短編小説】空気に何が書いてある(3/10)