これから『これからのエリック・ホッファーのために』を読む人たちのために

 荒木優太『これからのエリック・ホッファーのために』(東京書籍)を読んだ。南方熊楠や森銑三など在野研究者の人生にフォーカスをあて、そこから在野研究に必要な心得を学び取る内容だった。
 それだけではなく、世間になじめない読書人に向けた処方箋にもみえた。無論、読書人が世間にどうなじむか、という方向ではなく、読書人は世間になじめなくてもこういうことができるんだぜ、という類の処方箋だ。
 それは単なる世間からの逃亡者へ宛てたものではなく、慣れない世間の中で人間関係だったり仕事だったりで頭を抱えるが、何処か別の場所で安らぎを得ようとする生活者へ向けたものだと感じ取った。

 大学を勉学をする場所だと信じて疑わず、文字通り探求してきたが、就職活動ではなんの役に立たず。ようやく入った会社でも始業前に分厚く小難しい本を読んでいれば陰口を叩かれ、自分の学習の時間にあてたいから飲み会を断われば眉をひそめらる。かといって仕事で周りを見返せる訳もなく、ただ上司から説教を受ける毎日。
 そんな人が夏休みや年末年始などの固まった休暇でかつて大学時に専門としていた分野の資料をふと読んでいたら、ある仮説が浮かび、それを確かなものにするべく他の文献を読み、やがて確証を得る。

 ここまでいかないにしても、そういった知的興奮を糧として日常生活を生きよ、と『これからのエリック・ホッファーのために』から受け取ってもいいような気がした。少なくとも私はそう受け取った。やや牽強付会のような気もするが。

 またこの本を読んだら、足立巻一『やちまた』や北小路健『古文書の面白さ』を読みたくなった。折をみて読み返そう。

 それから、専門分野をどう選んでいいか迷ってる人にも『これからのエリック・ホッファーのために』はいいかもしれない。この本には、在野研究者がどのように専門を選んだか、そういったキッカケも載っている。いま、亜流ジェネラリストとなって焦りを感じている人は参考にできると思う。かくいう私も亜流のジェネラリスト気取りなので。

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