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日本一女性が働きやすいまち宣言の酒田市を視察しました。

 1月17日、山形県酒田市で、同市の「日本一女性が働きやすいまち」宣言の取組を視察しました。ご協力いただきました酒田市議会事務局、地域共生課の皆様、大変ありがとうございました。
 日本の経済低迷は、男女賃金格差が主要因の一つとされます。他の先進国と比べて、女性の賃金が上がらなければ、一人当たりGDP、GDPが下振れします。では、女性の収入増加を目指した酒田市の取組をみてみましょう!(上の写真:酒田市HPより)

1.所感
 酒田市が考える「日本一女性が働きやすいまち」とは、「職域において男女が均等な機会と待遇が確保されているまち」「ワーク・ライフ・バランスが推進されているまち」「多様な分野で女性の活躍が推進されているまち」とされています。非常に重要な事項が完結に表現されています。これらはすべて人権に関わる事柄です。

酒田市の女性の活躍応援ポータルサイト


 「職域において男女が均等な機会と待遇が確保されている」指標として、
国が推進する「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定」や「えるぼし認定」が挙げられています。酒田市は、この一般事業主行動計画策定企業、えるぼし認定企業を増やすため、市報なHPなど広報に力を入れており、HPで、計画策定企業名と認定企業名を公開しています。これは、本市ふじみ野市では行われておらず、公開すべきと考えます。100社あたりのえるぼし認定企業の順位が全国9位というのは、敬服に値し、その理由について、一つは、酒田市独自の「女性活躍支援員」の存在が考えられます。

酒田市HPより


 一般事業主行動計画策定企業、えるぼし認定企業を増やすために、酒田市では、女性活躍支援員というポストを設け、企業訪問などの業務を行っています。企業との窓口をほぼ一人化し、専従の専門業務としてこの取組みに対応しています。言わば、当該企業の増加は女性活躍推進員が大きく寄与しており、成果から見ればこの施策は成功と言えます(推進員は女性で、待遇は会計任用職員)。女性が企業、地域、社会を変えていく上で、推進員が果たしている役割は相当重要で、本市では行われておらず、参考にすべきと考えます。
 日本一女性が働きやすいまち宣言に賛同するリーダーの会については、上記推進員が企業訪問し、入会を勧誘しています。人口10万弱の都市で、120社が加入しています。女性活躍推進に賛同する経営者の組織としては、SDGs未来都市に選ばれている福井県鯖江市の「サンパチ組」(3月8日は国際女性デー)が知られていますが、こうした経営者の組織の存在は、職域において男女が均等な機会と待遇の確保を目指す上では必須であり、類似の組織が存在しない本市においても参考にすべきと考えます。


 また、高校生に、日本一女性が働きやすいまち宣言に関する講座を開催していることは、爾後の社会全体に良い影響を与え、将来、就業する市内企業における男女の均等な機会と待遇を実現する上で、積極的な効果を生じるでしょう。本市においても市内の大学、高校、中学校、及び社会教育の場面で、女性活躍に関する講座や広報を強力に実施すべきと考えます。
  「ワーク・ライフ・バランスが推進されているまち」の指標として、「日常生活においてジェンダーによる不平等を感じる割合の低下」を挙げています。具体策として、家事への男性の積極的参加につながる講座を開催しています。育児に関する男性への啓発は、主に職場などで行われることが期待されています。これは男性の残業削減や有給休暇取得と関係があるからですが、家事についての啓発は比較的少なく、その効果に関心がもたれます。

ウイズの男性応援セミナーのチラシ


 酒田市では男女共同参画センター「ウイズ」という施設を設け、男女共同参画に関する学習、交流、相談の場とし、上記講座を担当している部署ともなっています。ウイズ施設での講座のほか、各種団体へ出前講座も行っています。講座の内容では、アンペイドワークの価値についてなどで。啓発資料として「家事シェア」というパンフを作り、男女が、食事、掃除、洗濯、子育て、その他などの分類で30のチェック項目を設けたものとなっています。

酒田市HPより


 本市においては、ウイズのような男女共同参画に関する学習、交流、相談の機能を持つ特定の施設は存在しません。講座の案内を市HPに掲載していますが、県が実施するもので、開催場所はさいたま市です。ふじみ野市で男女共同参画を進めていくには、市内での講座の開催や各種活動は不可欠と考えます。本市においても、男女共同参画の施設を設け、妊娠、出産、育児などの状況にある男女を対象に、家事、育児、キャリアデザインの啓発を積極的に行っていくべきです。キャリアデザインについては、進路選択と関係が大きいので、対象として中学生からも行うのが適切と考えます。

酒田市HPより


 「多様な分野で女性の活躍が推進されているまち」(「女性のチャレンジ支援」)では、「男女の賃金格差の縮小」を指標としています。格差の縮小のため、女性の正規雇用やスキルアップを支援しています。女性は、男性と比べ、肉体労働などが主となる建設・製造・運輸などの業種で就業することは難しい。こうした中、いわゆるクリエイティブ産業と称される業種が、女性の就業先として認識されています。「肉体労働でない」、「テレワークなど家事・育児や他の仕事との合間にできる」、「給与が比較的高い」などの理由です。クリエイティブ産業とは、デザイン、広報・編集、テクノロジーに大きく分類され、すべてがパソコンを用いるものです。

酒田市産業振興まちづくりセンター、サンロクHPより


 酒田市で行われているIT女子育成プロジェクトは、賃金が比較的高いIT関係の仕事に従事することで、「収入を増やす」ことを目指しています。酒田市では、女性の意識啓発のため、インターネット上に「女性応援ポータルサイト」を設けています。同サイトを利用することで、ロールモデルなど、多様な女性活躍推進支援の情報に触れることができます。収入やキャリアアップに取組む契機を提供しています。。本市においては、いずれも取り入れられていない施策です。
 

酒田市HPより


 女性の賃金が低い、就業率が低い(M字カーブ)ことは、この30年間、他の先進国、新興国との間で、経済成長の格差が生じた主要因の一つです(他は設備投資、人材教育)。本市においても、経済低迷の事実をよく理解し、酒田市で採られているような女性のチャレンジ支援策を推進していくことが必要です。女性の就業率の向上、賃金向上が実現すれば、地域の経済にとってプラスとなります。また女性活躍が進んでいる地域となれば、居住地として本市が若い、現役世代の女性、及び夫婦に選ばれる効果、人口維持に積極的な効果が期待できます。
 何よりも人権への理解が深まり、多様性を持ち、寛容かつ相互扶助が進んだ、居住の満足度が高い地域社会が形成されると考えます。
  

2.視察内容
(現状)酒田市の人口は2023年6月末現在、96,466人で、2015年と比較すると10年間で約1割、人口が減少している。若い世代の社会増減については、①15~19歳、②20~24歳を見ると、2018年では、①で女性が162人減少、男性が148減少、②では女性が99人減少、男性が2人増加。2020年では、①で女性が101人減少、男性が78人減少、②で女性が65人減少、男性が30人減少。2022年では、①で女性が142人減少、男性が82人減少、②で女性が77人減少、男性が9人増加、となっている。この若い女性の社会減が多い主な背景として、若い女性にとって、働く地域として地元の酒田の評価が低いことが推察される。

 一方、女性の就業率については、令和2年で約50%となっている。20歳から59歳とした場合、約81%である(全国平均は約67%)。就業率は極めて高い状況にあり、このことから目標として、就労そのものでなく、賃金や労働環境などの改善を図る必要があると考えた。
 (日本一女性が働きやすいまちを目指す宣言)
 「酒田市は、女性がその個性と能力を十分に発揮し、その思いを叶えられるまちを目指し、」2017年10月、市民フォーラムで、行政、経済団体、経営者、働く人が連携して、日本一女性が働きやすいまちへ取り組んでいくことを宣言した。「日本一女性がはたらきやすいまち」とは、「職域において男女が均等な機会と待遇が確保されているまち」「ワーク・ライフ・バランスが推進されているまち「多様な分野で女性の活躍が推進されているまち」とした。

酒田市HPより


 (女性活躍推進懇話会
  酒田市では、この取組を進めていく上で、諮問機関となる「酒田市女性活躍推進懇話会」を設置した。懇話会の委員は、副市長、経済団体関係者、福祉団体関係者、地域団体関係者、識見を有する者、国及び県の関係機関から選任された者、などとなっている。懇話会は年2回、会議を開催、会の意見は市の施策に反映されている。直近では、2023年7月31日に開催され、以下のような提言が出された。
 「企業・働き方に関して」
・女性管理職を目指す人を増やすために意識を変える必要があるのではないか。企業向けに、先進事例(えるぼし認定企業や女性管理職のロールモデル)を発信して周知してはいかがか。
・働きたくても、年齢制限等があり、仕事のマッチングが上手くいっていない現状がある。隙間時間で働けるマッチングアプリを活用し、副業を認める社会づくりも必要ではないか。
「子育てに関して」
・産後うつ、虐待、孤独な育児、1人の時間が取れない等の現状がある。赤ちゃんのケア方法のセミナー、医療情報・子育てセンター情報が得られる産後ケアの施設・機能や、利用するための助成があっても良いのではないか。
「意識啓発・セミナーに関して」
・日本一女性が働きやすいまち宣言に賛同するリーダーの会の会員からメリットを感じてもらうように、会員向けセミナーをより充実させてはいかがか。対象は経営者向けだけではなく、働く女性向けもあってもいいのではないか。内容としては、効率化、DX、社内IT女子育成等。
・えるぼし認定を受けた企業で働く女性側の意見を聞くのはいかがか。
・一般向けの意識啓発も必要。動画を撮り、周知するのも良いのではないか。
・山形県で作成しているアンコンシャスバイアスのチラシ(漫画で分かりやすく書いている)で周知しても良いのではないか。
・研修用ビデオを会社に貸し出しできないか。
・高校生向けの意識啓発のためには、地元でいろいろな働き方をしているさまざまな大人の話を聞くのもいいのではないか。ナリワイ(自営業)の方や起業者の話を聞く等。 
「家事に関して」
・ファミリー・サポート・センター(ファミサポ)に加え、家事サポもできないか。
・家事の見える化、達成した家事をポイントにして、月に一度アプリ上でポイントがどれくらいか知れるような仕組みがあっても良いのではないか。


(3つのテーマ)「日本一女性がはたらきやすいまち」として「職域において男女が均等な機会と待遇が確保されているまち」「ワーク・ライフ・バランスが推進されているまち」「多様な分野で女性の活躍が推進されているまち」の3分野が取り上げてられている。それぞれ、市が取組むテーマとして、「働きやすい職場環境整備」「家庭との両立支援」「女性のチャレンジ支援」の3つのテーマが設けられている。
 第一のテーマは、「働きやすい職場環境整備」で、課題として「日本一女性がはたらきやすい街を目指していることの発信」「女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画策定済み企業の増加」「上記宣言に賛同するリーダーの会会員企業・えるぼし認定企業の増加」がある。第二のテーマは、「家庭との両立支援」で、課題として「学童保育所の待機児童解消」「ジェンダーを日頃意識していない層への効果的な啓発」がある。第三のテーマは、「女性のチャレンジ支援」で、課題として「女性個人の意識改革の推進」「よろずIT女子の仕事獲得及びスキルアップ」がある。
(注)「よろずIT女子」とは、2020年に市が始めた女性向けITスキル講座と受講者の名称。現在は「サンロクIT女子」と名称変更。

 上に述べた内容に関連する施策について市の部署としては、地域共生課を筆頭に、企画調整課、商工港湾課、こども未来課、保育こども園課、産業振興まちづくりセンターサンロク、が協同して担当している。
 (職場における女性活躍)上の第一のテーマである職場における女性活躍の取組の目標には、「事業主の意識改革」、「働きやすい職場環境の増加」があり、指標は「一般事業主行動計画の届出件数」としている。同件数は、2019年は7件で、2024年の目標は17件(現在は14件)となっている。この取組は、3つのステップに分けて行われている。第一は、日本一女性が働きやすいまち宣言に賛同するリーダーの会の入会、第二は、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定、第三は、えるぼし認定を得ることである。
 「日本一女性が働きやすいまち宣言に賛同するリーダーの会」は、市長とともに商工会議所会頭らが発起人になっている。2021年1月に設立され、22年3月に会員は47社、23年3月に73社、23年12月に120社となっている。業種は製造業が30社、建設業が29社、卸売小売が13社、医療福祉が10社である。企業にとってもメリットとなるよう、高校生・大学生への周知、公共工事での加点、市HPで周知、会員向けセミナーの実施、会員向けメールマガジンの発信、オリジナルロゴマークの作成、などが行われている。
女性が働きやすい職場づくりに取組む行う事業所への奨励金制度も設けている。支給の対象は①一般事業主行動計画の策定(100人以下企業)、②女性管理職の登用、③男性の育児休業等の取得で、①には30万円、②と③には20万円が支給される。
 えるぼし認定とは、行動計画の策定・届出を行った企業のうち、女性の活躍に関する取組の実施状況が優良な企業に厚生労働大臣が与えるものである。2023年10月現在7社であるが、企業100社あたりの認定数では、全国で9位になる。10位までの他の自治体はすべて東京23区。
 2021年度には、独立した女性活躍推進のポータルサイトを開設した。名前は「自分らしくを応援するポータルサイト」で、国・県・市・各団体が開催する関連セミナー等の情報の紹介、奨励金・リーダーの会など本市の取組の紹介、ロールモデルや企業のインタビュー掲載、など。

 (家庭との両立支援(子育て支援))第二のテーマである家庭との両立支援では、子育て支援と男女共同参画の2つの内容がある。
 子育て支援策の目標として、「特別保育等子育て支援サービスの拡充」、「保育需要等の多様化への支援」を掲げ、指標として、「希望どおり保育サービスを利用できたと感じる割合を2027年に85%とする(2017年は79%)」、「保育所・学童保育所の待機児童数をゼロとする」としている。
 子育て支援策としては、病児・病児後保育、一時預かり保育、休日等保育、学童保育所、ファミリー・サポート・センターなどの事業を拡充させている。
 このほか、子育て支援医療費助成対象の拡大(23年7月より18歳まで拡大)、保育料軽減施策(21年より、住民税所得割額を基準)、はまなし学園(児童発達支援センター)の受入時間延長(土曜日受入)、年度当初の待機児童ゼロ、を実現している。
 男女共同参画の施策での目標として「家庭における意識啓発」を設けている。指標として「日常生活においてジェンダーによる不平等を感じる割合が40%(2027年)」を目指している(2022年は40%)。家庭における男女共同参画、男性の積極的な家事育児参画を促進するため、各種啓発講座を開催している。講座の内容は、「大人のための今どき家庭科」「家庭で取組む時短家事セミナー」「ミニ講座@マタニティ教室:家事シェアのススメ」「男性応援セミナー(心理学など)」。

 (女性のチャレンジ支援)第三のテーマである「女性のチャレンジ支援」の取組の目標には、「多様な働き方ができる環境整備」、「女性のスキルアップや再チャレンジへの不安解消」を挙げており、指標として、「男性を100とした場合の女性の給与収入の水準を68%(2027年)」としている(2021年は64%、酒田市総合計画)。具体的には、女性応援セミナーの開催(整理整頓のレクチャー、キャビンアテンダントとの交流会)、サンロクIT女子育成プロジェクトの実施である。後者は、ITスキルを学び、「今より収入を増やす!」ことを目標にしている。SNS代行、高齢者スマホ教室アシスタント、バックヤード事務代行、Webデザイン、Webライティングなどの技能を取得する内容。2019年から4年間で、70人が基礎講座(23コマ)を終了し、約半数がサンロクIT女子に登録し、サンロクの仲介する仕事に従事している。残り半数は、企業勤務、自営など。

(質疑応答)
 (質問)「若い方への広報は」。(回答)「市内3つの高校で本年度、自分らしく生きるためのヒントや日本一女性が働きやすいまちを目指した取組についてのセミナーを実施した」。
 (質問)「女性活躍支援員とは」。(回答)企業を訪問し、広報や企業における女性活躍の取組のサポートをしている。国・県・市の制度や事業を一括して説明し、伴走支援を行っている。支援員の存在は大きく、本市の強みとなっている。
 (質問)「今後の取組は」。(回答)「方向性を共有してくださる仲間(市民の皆様)を増やしていく。今年度は酒田青年会議所の例会で、女性活躍の意見交換会が行われ、約70人が参加した。この後、女性活躍推進を行っている会員企業へのインタビューを行い、ユーチューブで公開している。青年会議所は独自に家事・育児に関する市民アンケートを実施、家事・育児に関する新規事業で協力していく」「IT女子育成講座の定員増加、内容の高度化を図っている。2023年度のIT講座受講者は40名を超えた。2023年3月、サンロクIT女子登録メンバーの活動・交流スペース「リボン」を開設した」「家庭における男女共同参画を推進する。来年度に事業化する」。

以 上

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