見出し画像

旅館サポーター制度でコロナ危機を乗り越える宿泊業のサポーター制度

「種プロジェクト」が生み出した未来の宿泊代

※月刊企業診断7月号に掲載の記事となっており、出版元に許可を取って同内容を投稿しています。

1.新型コロナによる宿泊関連事業者への影響 

 新型コロナウイルスによる宿泊関連事業者への影響は深刻だ。東京商工リサーチ(TSR) によると、2020年4月の「宿泊業」倒産は25件だった。前年同月2件から23件増(前年同月比1150.0%増)と急増した。宿泊業の月間倒産が20件台に乗せたのは、月間で過去最多の2011年5月(29件)以来、8年11カ月ぶりという。このため、年間でも2013年以来、7年ぶりに100件台に達する可能性が出てきた。負債総額も179億8,500万円(前年同月比404.0%増)と、急増した。負債10億円以上の大型倒産が5件、同5億円以上・10億円未満も6件発生し、中堅規模の倒産が負債を押し上げた。「新型コロナウイルス」の感染拡大は、インバウンド需要の急激な落ち込みだけでなく、外出の自粛要請も重なり、宿泊客のキャンセルが短期間に相次いだ。このため、宿泊業の倒産は、2月5件→3月6件→4月25件と急増した。
 2020年は東京オリンピックをはじめとする、外国人観光客のインバウンド需要の追い風が期待されたが、新型コロナ感染拡大で東京オリンピックの1年延期が決定し、先行投資の負担と業績悪化の狭間で事業継続の岐路に立たされる宿泊業者が急増している。
 そうした中で、宿泊業のために旅館サポーター制度「種プロジェクト 」が立ち上がった。発起人は、全国の日本一声をかけやすい旅館のホームページ屋「丹羽商店 」を運営している「丹羽尚彦」氏である。
そもそも「種プロジェクト」とは何か?

2.旅館サポーター制度「種プロジェクト」

 このプロジェクトを知ったきっかけは、筆者の地元・山梨県で、日ごろからお付き合いのある「岩下温泉旅館 」さんのSNS投稿であった。
「全国の旅館は大変です。でも、お客様に再びお会い出来る日のために頑張っています。温泉ライターや温泉研究家・温泉評論家の方々が全国の旅館のためにボランティアで【種プロジェクト】を立ち上げてくださいました。岩下温泉旅館もこのプロジェクトに参加しています。ぜひサポーターになって、未来の宿泊にご協力くださいm(__)mどうぞ、よろしくお願い致します!」 
 宿泊業が大変であることは勿論承知している。早速「種プロジェクト」をのぞいてみた。

3.未来の宿泊に今払う「かならず泊まりに行きますよ」

「種プロジェクト」のホームページにはこんなメッセージが掲げられている
「私たち客はいま、泊まりに行きたくても「自分が知らぬ間にウィルスの”運び屋”になってしまうのでは」という心配があります。ある方はキャンセルの際に電話でこう話しました。 「ごめんなさい。改めて必ず行きますから。がんばって、待っていてください。」、と。 キャンセルする多くの人々が同じ気持ちです。私たちにはいま、できる事があります。 将来の宿泊のために、いま支払いませんか?お宿はお客さんが0人でも、毎月々々支払いがあります。そこで働く経営者、従業員にも生活があります。 家族を養っているかたも多いことでしょう。 将来の楽しい旅のために、いま支払うと、そこで働くみなさんにもしかしたら安心を届けられるかもしれません。応援のメッセージと共に、お金以上のものを届けましょう。」

 そこで、宿泊業の現状と「種プロジェクト」について実際の声をお聞きするべく、岩下温泉旅館を切り盛りする若女将の宮本実佳さんにお話をお伺いした。

―現在の状況は如何でしょうか
「当館のお客様は日本人顧客が中心の為、3中頃までは影響がなかったのですが、徐々にキャンセルが出始めました。当館もやむなく休業をしなければならず、4/上旬~6/上旬位までを予定しています。よって、売上は4月9割減、5月は休業の為ゼロ、6月もいまのところ予約なしと非常に苦境に立たされています。今まで当たり前だったことがなんて幸せだったんだろうという気持ちでいっぱいです。とにかく早く日常に戻れることを願ってます。」

―心中お察しするところですが…ところで、種プロジェクトに参加したのはどのような経緯からですか
「温泉ライターの西村さんと温泉ソムリエの石井さんと以前からつながりがあって、お二方もプロジェクトメンバーに参画されているのですが、そのお二人からこんなプロジェクトがあるよって教えてもらったんです。そこではじめて丹羽さんを知りました。」

―種プロジェクトに参加されてみて如何ですか
「4/20以降に掲載させて頂き、SNSやメルマガで周知を行ないました。おかげさまで、サポーター様が50件以上集まりました。金額で、100万円以上は集まっていると思います。今回の参加を通じて、皆さまの温かさを凄く感じました。種プロジェクトの皆さまをはじめ、サポーターの皆さまなど、こんなにも他人のために動ける方が多いことに感動しています。種プロジェクトは、スタッフの方がボランティアでやっているんです。サイト運営からチケット手配まで。」

宿泊業をギリギリの状態で切り盛りしている生の声である。改めて、コロナ禍による経営の厳しさを感じた。
 一方で、こんな素晴らしいプロジェクトをボランティアで立ち上げてしまうとは、どのような人だろうと気になり、プロジェクト発起人である丹羽氏にインタビューを行なった。

―種プロジェクトを立ち上げた経緯をお聞かせください
「もともとの仕事は旅館専門のHP作成をしています。色々な方と話をしていたら、3月中旬位から、色々な旅館さんが大変なことになりそうだと。キャンセルがバタバタ続いた、ということを色々なところで聞いたんですね。東北でも大変そうだと。実は「種プロジェクト」は、東日本大震災の時に生まれたんです。そこで、再度このプロジェクトを立ち上げました。
応援したくても感染を広げたくないし、感染したくないので行けないので、泣く泣くキャンセルせざるを得ないのです。そこで、行けるようになるまで頑張ってくださいねという気持ちを何とか届けたい、という想いからこのプロジェクトが生まれました。」

現在の登録宿の件数が88件(5/19現在)ですが、ここまで広がったきっかけは?
「今日に至るまでには3つの段階があったと考えています。最初に、知り合いの宿10件ほどに声をかけました。次に、温泉宿業界の著名人に声をかけました。そこで、皆さんがSNSで拡散して頂き大きく広がりました。最後に、参加した宿泊業さまが、皆さんに声がけをした。といった段階を踏んでいます。
1日2件から3件は登録が増えているのですが、実はまだ登録出来ていないお宿が23件ほどあります。すべてボランティアで行なわせて頂いているので、どうしても限界があります。」
支払い証書作成や運営費などもすべて丹羽さんの持ち出しによるものだという。最近になりようやく、証書の印刷代や送料は寄付で何とか賄うことができるようになったという。

―種プロジェクトへの参加要件などはあるのでしょうか
「登録要件は特にございません。ですが、一つだけ旅館の皆様にお願いしていることがあります。サポーター証書を発行してから、3年間は絶対に事業を継続する覚悟でお願いをしています。」

4.必ず泊まりに来てくださいね。という声の重さ。

 丹羽さんは最後にこう締めくくった。「私たちは宿を探すとき条件で探すことが多いと思います。金額や条件も大事ですが、今改めて思うことは、個々のつながりが大事だと。今回のサポーター制度はすべて個々のつながりのある方がサポーターになっていることが多いのだと思います。
今回「種プロジェクト」を通じて感じたことは、宿側の「必ず来てくださいね」という声の重さです。この言葉の裏側には、来て頂くまで何としても倒れることは出来ないという、強い意思の表れがあるのです。」

 サポーターから前払いを受けたところで、落ちた売上を完全に賄えた宿はない。実際のところ、金融機関等の支援がない限り事業は頓挫してしまうだろう。しかし、私たちサポーターが応援することで、何とか続けていこうという前向きな気持ちのプレゼントができるのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?