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【寄稿】数字は無表情だけど/久保勇貴(仕事文脈vol.23)

数学のテストで二度大失敗したことがある。一度目が高校入試の本番で、二度目が大学入試の本番だった。人生のかかった大一番で、数学はことごとく僕の頭を真っ白にしてきた。

数学が特別苦手だったわけではない。そんなに得意科目ではなかったものの、過去問はそこそこ合格点ぐらい取れていたし、模試はだいたいA判定だった。ただ、一度焦るとダメだった。いつもは得点源となるはずの問題がなぜか白紙のままで、3問は解き終わっていなければいけない時間でなぜか1問しか解けていなくて、残り時間は49分、角ABCは36度、xとyを実数として、数字は無表情で押し寄せてきて、合格倍率は4.2倍、心拍数は102、残り時間は11分、そうして迫り来る数字に圧倒されているうちに、白く冷たい血液で脳が満たされていくように頭の中が真っ白になっていった。白い血液は指の先端まで染みわたり、真っ白な手汗となって解答用紙をびちょびちょにした。そのぐらい真っ白な解答用紙だった。

数字はプレッシャーを与える。数字は緊張感を与える。普段無口な先生ほど怒るとこわいみたいな感じで、真顔で何考えてるか分からないから数字はおそろしい。ただ、無表情だからこそ、数字は僕らを遠くまで連れて行ってくれるようなところもある。

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