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連載「馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー」第5回「ラーメン屋のハンバーグ弁当」 辻本力


すっかり更新が滞っていたところに、今回の新型コロナウイルス蔓延による自粛要請で、完全にタイミングを逸してしまった。馴染みの店で、普段食べない馴染みのないメニューを注文してみる——というこの連載も、お店が閉まってしまってはどうしようもない。というか、こんなに飲みに行ってないのは、まだ酒を飲み始めたばかりの頃、つまりは20歳以来ではないか? 辛い。

こうなるとできることは、営業時間を短縮して開いているお店に行くか、最近増えてきているテイクアウトメニューを買って応援するか、ということになる。で、考えてみれば、後者は思いっきり「馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー」なわけで、ある意味この連載にぴったりではないかと思った次第。

というわけで、コロナ禍のテイクアウトメニューを取り上げてみたいが、初となる今回は、これまでとは趣向を変えて、敢えて非飲み屋系で行ってみたい。ラーメン屋だ。

もっともラーメン屋は、メンマと餃子でビール、なんて使い方ができるわけで、軽飲みスポットとしてもポピュラーな存在だ。だが、今回はそういうのではなく、ランチで出している弁当の話をしたい。もちろん、コロナ以降に誕生したメニューだ。

それは、ハンバーグ弁当。チャーシュー丼とかなら分かるが、ラーメン屋でハンバーグというのは、正直イメージしにくい。物は試しと頼んでみたら、ボリューム満点のすごいヤツが出てきた。

持ち帰り用の袋に入れられた弁当を手渡されてまず感じたのは、ずっしりとした手応え。思わず、心の中で「重!」という声が漏れる。家に帰ってあらためてみると、上段にハンバーグ、下段にご飯。ご飯におかずが直接載っているのではなく、セパレートされている。牛丼屋の持ち帰りカレーと同じスタイルだ。

ハンバーグ弁当2

で、このハンバーグが圧巻。ざっくりとした測定で10cm強×8cm、厚さは驚異の4cm! そりゃ重いわけだ。こんがりとした焼き目が香ばしくて旨い。トマトソースもしっかり味で、ご飯のおかずにぴったりである。

考えてみればこのラーメン屋、もともとスチームコンベクションを使ったチャーシューを売りにしている、焼いた肉にこだわりのあるお店なのだ。だからこそ、こういうベクトルにも舵を切れたのだろう。

しかしボリュームがすごい。ワンパクすぎる。対して、ご飯の量はそうでもないため、一瞬「食べ足りないんじゃ?」と思うのだけど、普通にお腹一杯である。むしろこのくらいにしておいてくれて良かった。ご飯が、肉の付け合わせみたいに思えてくるのがおかしい。たぶん、ハンバーグとご飯の比率が変なのだ(褒めてます)。

しかも、これで500円という、コンビニ泣かせのメニュー設定もすごい(正直もっと取ってくれていいと思う)。他にも、炙りチャーシュー丼、麻婆豆腐丼なんかもあり、いずれもボリュームたっぷりだ(カレーだけはまだ食べていない)。強いて言えば、もうちょっとご飯が硬めだったら最高だなーとは思うけど、まあそのへんは好みということで。

今の状況は、大好きな店が疲弊していくのを見るのが辛いし、客としても行きたい店に行けなくて悲しいが、こうした意外性のある、しかも旨いメニューに出会うと気持ちが少し明るくなる。これからも、小さな店のチャレンジングなメニューはどんどん食べて応援していきたいと思う。

辻本力(つじもと・ちから)
1979年生まれ。ライター・編集者。文化施設「水戸芸術館」を経て、2010年に「生活と想像力」をめぐる“ある種の”ライフスタイル・マガジン「生活考察」を創刊。文芸・カルチャー・ビジネス系の媒体を中心にいろいろと執筆中。19年よりタバブックス社外役員。
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