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馴染みの店の、馴染みじゃないメニュー/辻本力 第3回「野菜串」

かつてはあまり食指が動かなかったが、ある時から積極的に注文するようになったメニューがある。

野菜串の話をしたい。

やきとん屋や焼き鳥屋などに行くと、肉串(モツを含む)のメニューの後あたりに、必ず野菜串の一群がラインナップされているはずだ。野菜を串に刺して焼いた、あれだ。ポピュラーなものだと、ピーマン、ししとう、アスパラ、椎茸(厳密には野菜ではなく菌類だが)あたりが挙げられる。

かつて私は、これらにほとんど興味を示すことがなかった。野菜嫌いだからではない。漬物やおひたし、サラダなど、野菜類はたいていサイドメニューで注文するので不要と考えていたからだ。肉を食べに来てるんだから、串を頼むなら肉だろ肉、という気分もあった。

私は串モノで飲む時、肉串をメインに据え、野菜のサイドメニューを箸休め的に置くような布陣を敷く。お通し(あるいは、すぐ出る系のつまみの何か)、肉串、肉串、野菜サイド、肉串、野菜サイド、肉串、肉串……のような感じで食べ進めていくのである(もちろん、非野菜のサイドメニューを頼むこともある)。

野菜のサイドメニューは、一種の口直し的な役割を果たす。美味しくても、延々肉類が続くのはけっこうキツイからだ(人によっては、野菜とか要らん、という人もいるのかもしれないが)。

なぜ野菜串に馴染みがなかったのかと言えば、こうした流れが強固にできていたため、串でありながら肉ではなく、野菜だが串状であるそれの、扱いというか、入れどころがイマイチ分からなかったのである。

だが、気付いてしまった。焼いた野菜はめちゃ旨いのだ。茹でたり炒めたり蒸したりしたものも、もちろん旨い。しかし、炭でキリッと焼かれ、ちょこっと焦げをまとい、アツアツの水分を溢れんばかりにたたえたそいつは、ちょっと別格に旨い。頬張ると、肉や脂に倦んだ口内が一瞬にしてリフレッシュされる。あれ? 野菜の方が旨いんじゃ……と思う時すらある。肉を食べに来ているのに。

焼台を眺めていると、野菜串と一口に言っても、それぞれに、実に細やかな仕事が施されていることに気づかされる。油、醤油、タレなどを塗ったり、塩・胡椒か、あるいは塩のみか、マヨネーズを添えるかといった選択もある。軽く焼き目を付けるにとどめて生の食感を残したものもあれば、よく火を通してグズグズにしたものもある。店主の考える「この状態を食ってくれ」という、言うなれば「理想」がそこには表れる。ただ焼いているだけではないのだ。

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主役は肉かもしれないが、野菜串も見くびってはならない。美味しい串の店は、野菜串にも手を抜かないし、「これは!」という驚きを与えてくれる。とりあえず、かつての、ないがしろにしていた自分を詫びたい。すんませんでした。

なお、私に野菜串の美味しさに気づかせてくれたのは、たぶん、小玉ねぎ、ミニトマト、ピーマンあたりだったように思う。このへんがラインナップされていて、かつ焼きが上手いと、いい店だなーまた来よう、と思う。最近のヒットは、台湾のユリ科の植物・金針菜と、固すぎず柔らかすぎずな微妙なラインを狙ったズッキーニあたりである。

あー、飲みに行きたくなってきた。

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