刈谷という男2

凧上げをテーマに投げつけたら、何だか深読みしたくなるような作品が出てきましたね。
承認欲求……ということは、高く上げるだけでは駄目なんだなと。あの凧凄いねと言わしめたい気持ちの表れということなんだなと、理解した次第で。

凧上げに勤しむ誰かさんもそうなんですかねぇ?どうなんでしょうねぇ。

一見関係のない物を結び付けるのは面白い。けど、ある程度の共感を得ないといけないと私は思う訳ですよ。本当に意味の分からない事だとキョトンとしてしまう。「アイスクリームはカタツムリである」とか言われたら何で?ってなるじゃん。知りたいじゃん、そのこころは!?ってなるじゃん。ここで私が何も語らないと意味不明なまま終わるでしょ。モヤモヤするでしょ。でも意味分かんない!で終わっちゃうでしょ。だから、刈谷が凧を承認欲求みたいだと思った理由がちゃんと語られるのは良い事だなぁと思ったわけで。こういうのはその説明の説得力が増すほど面白さは増すんじゃないかなー。全部を書ききるのは量が必要だし難しいけど、「あーね?」「なるほど?」と思わせる箇所があるときっと強い!

さてさて、凧上げ→承認欲求という発想を元に私も今回刈谷を動かすこととなりましたが………メインに出すにあたりちょっとだけキャラを濃くしました。「」が続く際にどちらが話しているのか分かりやすく、ついでにキャラをもうちょい立たせて……といった具合です。が、やり過ぎた。先に言っておく。やりすぎた。変な男だな、刈谷。



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お題『今回の話に出てきた刈谷を出演させる』



 刈谷は変な男だ──。
 冬の街に下駄を転がす音が鳴り響く。その音に道行く人が刈谷を振り返り、笑いながら立ち去っていく。そんな光景をもう何度見ただろう。刈谷の後ろ三メートルの位置を保って歩く僕は溜め息を吐いた。
 刈谷から呼び出しのメッセージが届いたのは冬の寒さも和らいだ穏やかな日曜日だった。要件も告げず、「来い」と端的なメッセージを受け取った僕はそんな失礼なメッセージがあるものかと一度は無視を決め込んだ。にも拘わらず、今僕が此処に居るのは、続けて送られて来たメッセージに少なからず興味を引かれたからである。
 「イカをあげよう」。おそらくイカフライでも作るのだろう。ならば他の友人達にも声が掛かっている事だろう。短絡的に考えて誘いに乗った一時間前の僕を、僕は殴りたい。
 僕は刈谷と二人っきりで街を歩いている。待ち合わせた駅前から郊外へと向かう刈谷の足取りは何処か軽い。彼の背中ばかり見ている僕だが、刈谷の機嫌が良い事は理解出来た。やがてだだっ広い公園に着いた刈谷は、肩に掛けていたトートバックから凧を取り出した。
「さぁ、あげるぞ」
と曰って、刈谷が僕に凧を押し付ける。
「持て、そして後ろを走れ」
凧揚げは一人では出来ない。だが、こんなにも雑な頼み方が有るだろうか。だが此処まで来てしまったのだ。仕方無しに凧を両手に持つ。カランコロンと鳴る下駄を追って風を受けた凧を放してやる。空に舞い上がった凧は青空を優雅に泳いでいた。
「イカってなんだよ凧じゃん」
糸を引く刈谷の足下に座り込んで呟けば、僕を見下ろした刈谷がニヤリと笑った。人の悪い顔である。あまり他人に見せない方がいい笑みである。
「地方にもよるが、凧はイカと呼ばれていた時期がある」
「は?」
「イカ上げが禁止されて、タコ上げになった。要は屁理屈だ」
「態々凧をイカなんて言い換えた理由は?」
「凧上げをするぞと言っても、お前は来ないだろう」
悪戯が成功した子供の様に刈谷が目を細めた。
「……刈谷の凧、いや、イカはさぁ。何なの?」
「何なのとは妙な事を聞くな。何だ、お前の凧を『承認欲求』と言った事を根に持っているのか」
図星を突かれて思わず口篭る。悔しいので刈谷の脛に拳をぶつければ刈谷が小さく唸った。
「俺のイカは……自尊心だな」
「自尊心?」
「上げてやらねば立ち行かないが、高く上がり過ぎると……」
言葉を詰まらせた刈谷に視線を遣れば、彼は何故か右手にナイフを持って笑った。刹那、ブツンと音が鳴り、凧に結ばれた糸が切れた。否、切られた。
「この様に地に落ちる、落とされるのだ」
風に少し流されて、凧がぐしゃりと地に落ちる。
「落とされるのだ、じゃねぇよ!何やってんだお前は!」
「ははは。墜落した」
愉快に笑って刈谷が歩き始める。下駄が鳴る。カラコロとやはり楽しげに。
「人間、思い上がると良い事はないということだな。ははは」
落ちた凧を拾い上げて刈谷が笑う。
 刈谷は変な男だ。頭も悪くはないし、最低限の常識はある。だがその思考は独特だ。少しばかりズレた男だと思う。何を考えているのかよく分からない。そこが面白くもあるのだが。
「良い教訓になった。お、たこ焼きの屋台が出ている。食おう」
刈谷が僕を手招いた。彼の興味は既に次の物に移ってしまったらしい。仕方ない、今日はとことん付き合ってやるさ。
「イカ焼きの間違いなんじゃねぇの?」
そう言って、僕は刈谷の後を追った。


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はい。こんな感じです。
1巻の刈谷と最終巻の刈谷くらいの差があるかもしれない。(我ながらその喩えはどうなのか)
うーん、口調でキャラ立たせ過ぎた感がなぁ……。こいつは反省案件だ。とりあえず変な男。



さて、次のお題ですね。
「オノマトペを使わずに、運動会の話を作る」
これにしよう。うん。悪くないお題では?難易度がちょっと上がった気はするけど、練習にはなるはず。

んでは、次を楽しみにしております!

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