初めて作ったiPhoneアプリが5年かけて13万ダウンロードされた話
こんにちは。個人でWebサービスやiOSアプリを作っているtabbyzです。
最近では「assift (アシフト)」という勤務シフト表の作成を支援するサービスをリリースしました🎉もしシフトを組む機会があればお試しください。
今日はこのassift・・・ではなく、このサービスの前身である「シフト表」というアプリが生まれてから死ぬまでについて書こうと思います。
この「シフト表」は5年前に僕が初めてリリースしたiPhoneアプリです。そして、先日assiftをリリースするタイミングでサポートを打ち切りました。
なぜサポートを打ち切ったのか、そもそもなぜこのアプリが生まれたのか、そしてみんなが気になるお金の話など、良い機会なので振り返って記録に残そうと思い、このノートを書きました。初noteです👏
※アプリの宣伝ではないのでとくにリンクは貼りませんが、気になる方はApp Storeで「シフト表」と検索してみてください。
アプリの生い立ち
2013年春、国内のとある検診センターに勤めている親戚から「iPadでシフトを組めるアプリを作れないか?」と相談を受けたのが始まりでした。当時は紙とペンのアナログ運用だったため、毎月のシフト作成には相当な苦労があったそうです。
それもそのはず、彼が働く職場には60名を超えるスタッフが在籍しているためシフト作成は超難解です。Aさんは月水金しか出れない、Bさんは週に2日まで、Cさんは毎日出れるけどできるだけ遅いシフトは避ける、遅番の翌日は早番にはしない、土日のどちらかは休みにする・・・などなど、無数にある条件のすべてを満たしつつ、かつバランスの良いシフトを組むという作業は、もはや人が出来る限界を超えていました。
しかし人間には難しくても、「インンプットをもとに、決められた条件を考慮してアウトプットする」という作業はコンピュータの得意分野のはず。もし、あらかじめ条件だけを設定しておいて、それに沿って自動でシフトを組む事が出来たら面白いのではないか?直感的にチャレンジする価値があると感じました。
といっても、当時の僕は独学でVBAやC#をかじった事がある程度で、アプリの開発なんてした事もありません。それでも、自分で書いたコードがiPad上で動く楽しさに魅せられどんどんプログラミングにハマっていきました。
「作りたいものがハッキリしていると成長するのも早い」とよく言いますが、本当にその通りですね。Objective-C(iOS用のプログラミング言語)の本を片手に、約3ヶ月ほどで形にする事が出来ました。
プライベート用に作ったアプリをApp Storeへ
こうして初めて作ったアプリは、自分がイメージしていた以上に実用的な仕上がりでした。達成感と同時に「これは一人だけに使ってもらうのはもったいないのでは・・・?」と欲が出てきました。そう、App Storeへの公開です。
とはいえ、App Soreで公開するということは「不特定多数のユーザー」に使ってもらうということです。より多くの現場で使えるように汎用的な仕様に作り変える必要がありました。さらに、iPadアプリのままだと市場が限られるので、よりユーザーの多いiPhone用のアプリとしてイチから作り直すことにしました。
こうなるともはや別のアプリです。一から仕様を考え直し、半年ほど時間をかけてじっくり形にしていきました。
リリースしたら予想以上にダウンロード数が伸びた
2014年1月7日、待ちに待ったApp Storeへのリリース日。自分で作ったアプリがあのApp Storeに並んでいるのを見た時はなんとも不思議な感覚でした。
個人開発なので目立った宣伝もしていなかったのですが、ありがたい事に公開直後からじわじわダウンロード数を伸ばし、リリース初月から1,000近いユーザーを獲得することができました。
その後もコンスタントにダウンロードされ続け(と言っても月平均で2,500DL、多い月で4,500DLほどでしたが)、5年という長い年月を経て累計13万DLまで数を積み上げることができました。すごい!
累積ダウンロード数をグラフにするとこんな感じ。
未だかつてこんなにも綺麗な棒グラフを見たことがあるでしょうか?笑
伸び率が下降していないのは幸いですが、上昇もしてないので「一度もバズっていない」という事がよく分かりますね!😂
通常、宣伝にお金をかけられない個人開発のアプリがヒットするためには「TwitterなどのSNSでバズる」か「影響力の大きいメディアで取り上げられる」くらいしかないのですが、なぜ「シフト表」はこんなにもユーザーを獲得する事ができたのでしょうか。
考察① | App Storeのランキングからの流入
公開して3ヶ月ほど経ったある日、なぜかApp Storeのビジネスカテゴリのトップ有料ランキングにランクイン(14位)しました。
たしかに、その月のダウンロード数はすこし伸びてはいたのですが、それでも有料版は月に80DL程度だったので、たった300円×80DL=24,000円の売り上げでランクインした事には正直驚きました。ビジネスカテゴリが競争相手が少ないマイナーカテゴリなのかもしれませんが、これならその気があればランキング操作できてしまいそうですね・・・。
カテゴリ別ダウンロード数ランキング(デイリー)の推移です。※順位なので数字が少ないほど良いです。
こうして見ると有料版は結構変動がありますね。どちらも平均して100位前後をキープしつつ、有料版は定期的にTOP20にランクインしているので、基本的にはランキングを見て興味を持ってくれた人が多そうです。
カテゴリ別ランキング、最高2位!全体でも258位!👏
考察② | アプリが市場のニーズにマッチしていた
「シフト表作成アプリ」というと、一見とてもニッチなジャンルに見えますが実はかなり大きな市場で、飲食店や病院、保育園などシフト制で回っているあらゆる業種の職場がターゲットになり得ます。
そのため、当時から類似のアプリやサービスは多くあったのですが、どれも機能過多でUIも整理されていませんでした。そうした中、機能の数としては最弱レベルの「シフト表」が支持された理由は、その「とっつきやすさ」にあったのではないかと考えています。
普段IT系の職場で働いていると忘れがちなのですが、世の中の大半の人たちは決して仕様を理解する能力に長けてはいません。そして「使いにくさ」というものに寛容でもありません。(これ大事!)
とくにアプリはインストールしてものの数分で「使えるか、使えないか」を判断されます。そのため「機能が多くてなんでも出来る」ことよりも「多少できる事に制約があっても直感的にすぐ使える」ことの方がはるかに重要なのです。
「機能が少ないのに支持された」のではなく、「機能が少ないからこそ支持された」という事実は、エンジニアにとって大きな気付きでした。
直感的なユーザビリティ ★5
まさしくと言った感じで使いやすい!
私の状況だとLiteで充分なので、申し訳なく思い、宣伝になればと思い、レビューいたします。余計な操作、機能はなく、とてもシンプルで使いやすい、他のアプリメーカーにも見習って欲しいと思いました。
※App Storeレビューコメントより
売り上げの構造
シフト表アプリは「300円の有料版」と、「機能制限ありで広告付きの無料版」の2種類をラインナップしています。
有料版の売上は30%がAppleに徴収される仕組みなので、300円のアプリの場合は1DLあたり「210円」が開発者の元に入ります。それに対して無料版の広告は、平均して広告1クリックあたり「約20円」が収益となります。
ただし、この「クリック単価」(1クリックあたりの収益)は月によって10円〜30円以上と変動が激しいため、広告収入で安定して収益をあげるのは難しいというのが実感でした。
もちろん、クリック率やクリック単価をあげるために工夫をすればもう少し収益を上げられていたのかもしれませんが、基本的に広告はユーザーにとって鬱陶しいものなので(開発者としても本当であれば入れたくない)、シフト表ではオーソドックスに画面下部にバナー広告を表示するだけにしています。そのためクリック率も「0.7%」と決して高くありません。
実際どのくらい儲かったのか
これが5年2ヶ月の収益のすべてです。月換算すると約2.6万円。これを多いと見るか少ないと見るかは人それぞれですが、個人的には満足しています。
それにしても、有料版の収益(課金収益)と無料版の収益(広告報酬)がちょうど50:50というのが面白いですね。課金率(有料版を購入してくれたユーザーの割合)が「3%」ほどなので、3%の課金ユーザーと97%の無料ユーザーからの収益がちょうどイコールだったと言えます。
それでもサポートを終了する理由
冒頭にも書いたように、このアプリは昨年末で正式にサポートを終了しました。趣味で作った個人開発のアプリとしては十分な成果を残しているのに、それを自ら打ち切る事を不思議に思う方も多いかと思います。それでも、サポートを終了せざるを得ない理由がありました。
昨年12月のことです。ユーザーから1通のメールが届きました。それは、iOSをアップデートしたら「シフト表をカメラロールに保存する機能が使えなくなった」というバグの報告でした。
正直、焦りました。というのも実は「シフト表」は、この時点で過去4年間まったくアップデートをしていない「死んだアプリ」だったからです。(見ようによっては、それだけ長くアップデートしなくても動いてくれていたとも言えますが・・・)
プログラマーあるあるですが、何年も前に書いたコードをメンテナンスするというのは、たとえ自分のコードであってもかなりの労力を必要とします。しかも初心者が書いたObjective-Cのコード、直すことによって新たなバグを埋め込む可能性も十分にありました。
それでも、主要機能と言える部分のバグを放置するという事は「アプリの完全な死」を意味します。多くのユーザーの事を考えるとそれは出来ませんでした。
幸いにもソースコードは残っていたので、ためしに手元の環境でビルド(ソースコードからアプリファイルを生成すること)してみると当然ながら上手くいきません。それもそのはず、当時iOS7用に書いていたコードがiOS12の開発環境ですんなりビルドできるわけがありません。地道にひとつずつエラーの原因を潰しつつ、カメラロールの不具合の修正が終わる頃には問い合わせから1ヶ月もの月日が経っていました。
アプリを継続してメンテナンスすることの難しさ
無事アップデートできた安堵よりも、とにかく今後の事が心配でした。将来的にアプリが起動できなくなるような致命的な不具合が起きた場合に、それにすばやく対応できるだけの状況にないからです。そこで、一からアプリをリファクタリング(今の仕様を変えずにコードを綺麗にメンテナンスする事)する事も考えましたが、残念ながらそこまでのモチベーションはありませんでした。
ただ、この「シフト表」が多くのユーザーにとってなくてはならないアプリであることは事実です。アプリを世に放った者の責任として、最悪の自体が起きる前に何らか対応を取る必要がありました。 それが、Webサービスとしてリメイクするという決断でした。
単純に、Webサービスで継続的に収益を上げる経験をしてみたかったというのもありますが、アプリよりもWebベースの方がOSやブラウザなど使用する環境に影響されにくいので、より長く安定してユーザーに価値を提供する事ができるとの判断です。
もちろん、今は完全無料のサービスなので運用にかかる費用などの問題はあります。それでも、今後サービスが成長してユーザーにとって必要不可欠な存在になれば、きっとお金を出す価値を感じてくれる人はいるはずです。(もちろん、その時が来ても基本は無料で使えるようにしたいと思っています。)
「シフト表」アプリの今後について
アプリのサポートは終了しますが、愛用してくれるユーザーがいる限りApp Storeでの公開は続けるつもりです。しかしアップデートの予定はありませんので、今後は出来るだけ後継である assift を利用していただければと思います。
長文になりましたが、これが僕が初めて作ったiPhoneアプリのリリースからクローズまでの記録です。
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