語り継ぐ琵琶法師とニートtokyo

NetFlixで配信していたアニメ「平家物語」が哀しい話ではあるけれど、とっても良かった。
アニメはキャラクター原案を高野文子さん、アニメーション制作をサイエンスSARUさん(ということは湯浅政明監督)他、私ですら知っているあたりの方々をはじめ〜あきらかにとびきりのSTAFFで制作されたもので、それはそれは美しくせつなく儚く素晴らしかった。(OPテーマ曲「光るとき」を担当したオルタナティブ3ピースバンド 羊文学も好きになった)どう素晴らしかったかについて湯浅アニメーションは独特な動きや表現が真骨頂だから、やはり見る以外ないと思う。
鑑賞後、私の日常に残ったのは、アニメ「平家物語」のテーマの部分というか、〝びわ〟という名の主人公の琵琶法師、語り部の存在だ。古典の「平家物語」を読んでいないので作品解説を鵜呑みにしてしまうと、びわは古典には存在しないキャラらしいが、平家の栄枯盛衰を、さらには、歴史的でもない、ただ平和でちょっとふざけたりもしていた日常があったことを、平家一族が滅んだ後もびわが語り継ぐ役なのだ。都や人が滅びようとそこにあったことは消せない、びわが消させない、ベベベンベベベン。何度涙を拭ってもまた落涙してしまった。
びわは歴史に残るような当事者サイドではなく語り部係を果たす。そういえば私も語り部係を任されていたような...? 記憶が一つ鮮明に蘇った。

数年前、とっても面白くいろんな人と仲良くなれて好かれる友人が、「とある植物」の取締法違反で「とある塀の高い場所」へ入所の運びとなった。彼女には子供もいてどんなに大変だったでしょう??と心配したまま、シャバに出てきてまもない彼女と私は京都のスマート珈琲店で落ち合った。スマート珈琲店は、せっかく京都だし雰囲気のいいレトロ喫茶がいいよね、っていう今までと変わりない細かいところまで貪欲な彼女のリクエストだった。

私たちはレトロ喫茶の概ね茶色いインテリアや常連さんが醸すムードをぐるっと見回して、そのいい感じを確認し、名物の分厚いタマゴサンドウィッチとコーヒーを注文した。テーブルに置かれたお冷にとりあえず口をつけ「大きな声では言えないけど〜」と前置きしながら、ムのつく場所に数ヶ月入所した体験について「話していい? いやぁ、マジで辛かった」と、彼女は明るいおもしろテンションのまま話始めた。
覚えているままに再生すると、むき出しの蛍光灯がとにかく明るすぎて辛かったこと(家では間接照明&暖炉)、そこにいる間、人々は本名を他言してはならず、お互いを「3番さん」「5番さん」みたいに番号で呼び合っていたこと。とはいえ私語は結構話していて、何度も出たり入ったり出たりしているベテランの年上女性に「メソメソ泣いてちゃいけない、大丈夫だから気をしっかり!」と励ましてもらっていたことや、その女性がお金に余裕があってもカモを見ると抜いてしまう骨の髄までの万引きのプロだということ、さらには先に出所することになった私の友人とその万引きのプロおばさんが再会する方法として、〝クリスマスイブにT駅のマクドナルドに集合する〟というスペシャルな約束を交わしていることを、「ヤバいでしょ〜」と言いながら教えてくれた。滅多に聞けないすべらない話に興奮しながら、会えるといいね!と私は心底思って強く相槌を打った。

けれど数ヶ月後、私の友人に深刻な病が発見された。進行がむちゃくちゃに早かった。その時期、彼女と無関係な事情で私は精神的にパンクしてしまって、役に立てないどころかメールの返事さえできていなかった。
強い薬で痛みを抑えて、なんとかギリ面会可能な状態の彼女をぼーっとした頭でお見舞いに行ったとき、ベッドの上で身体を起こすこともできなくなった彼女から「大丈夫? メールの返事ないから心配したよ〜」と声をかけられてしまった。美味しいものに誰より目がないのに、もう何かを食べることは難しくなって、ほんの一筋のお水を飲むのにも苦労していた。「新鮮な海の幸が食べたいわ」と彼女は今一番食べたいものの話をした。「無理しないでね」私は励まされたまま最期の彼女と別れた。本当に色々頑張って治療していたのに、奇跡は叶わなかった。イブの日、万引きプロのおばさんはT駅のマクドで私の友を待っていたのだろうか。

自分のことでもないエピソードトークをベラベラ話すことって不謹慎? けど、せっかく彼女が残してくれたとんでもない話を忘れたくないし、琵琶法師役だけでもしたくて。

ニートtokyoのYoutubeの352万再生動画「DELTA 9 KID (舐達麻) : 刑務所のメシについて~善哉の美味さ~」にも心を鷲掴みにされて、何度も何度も繰り返し見た。

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