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けものみちを探して-ジビエ・狩猟を通して、命や自然に向き合う大学生―

最近、ジビエという言葉をよく耳にするけれど、狩猟の世界はどのようなものなのだろう?
ジビエの魅力は美味しさだけでなく、農村の地域資源、環境問題の解決手段など様々あって……。
食べる命の最初から最後まで見届ける狩猟の世界の奥深さを、NGO法人けものみち代表の赤石旺之(あかいし•おうじ)さんにお話をうかがいながら、のぞいていく。

書き手:河村青依(TABETAI編集部)

*文章の途中で、鹿の解体の写真があります。ご了承ください。

【登場人物紹介】

写真提供:赤石さん エコビレッジの鶏舎にて

赤石旺之(あかいし・おうじ)さん

東京都立大学院 都市環境科学研究所 修士1年
「野生鳥獣資源の有効活用」と「社会の持続可能性を加速させる」ことを理念に掲げ、農工大狩り部から派生したNGO団体けものみちの代表を務める。狩猟にとどまらず環境問題や社会問題に関するイベントを累計年50回以上開催、400人集客するなど活動の幅は広い。
また、将来は、生態系保全と経済の成長の両立をテーマにビジネスを展開したいと考えている。

自然と対峙する喜びが、狩りにはある

写真提供:赤石さん 鹿の解体を行っている場面
写真提供:赤石さん くくり罠をしかけている場面

東京出身でありながらも、小さい頃から地方の自然や動物たちが大好きだったと語る赤石さん。

そんな赤石さんが考える狩猟の魅力とは何だろう?赤石さんは狩りの魅力を、2つの視点から語ってくれた。

「狩猟の工程ってまず森に入って、“けものみち”を探すところからスタートする。それで、足跡や歩き方の癖から何の動物か探っていき、罠の種類や設置場所を考えます。

そのすべての過程が“対自然”で、ドキドキする。自然・動物が好きな人にとっては、狩りは最高だと思うな」

もう一つ、環境視点での狩猟の魅力は、環境生態系を守るために頭数を制限することにある。

「日本は戦後に資材目的で、広葉樹林を切り裂いて、針葉樹林にする拡大造林政策をした。鹿が好む場所は、森と草原のあいだの林縁と呼ばれる部分。一説によるとこの政策によって、林縁が増加したから、それに伴い鹿が増加したともいわれている。だから環境に負担がない程度で、頭数を調整する必要があって。狩猟をすることで今ある人間の暮らしと、動物の暮らしの共存というテーマに真正面から向き合える、それが狩猟の醍醐味だと感じるな」

狩猟の対自然の魅力には、捕る過程と、その背景にある人間と自然の共生というテーマがあったのだ。

自然の命に介入する、狩猟の覚悟

写真提供:赤石さん 捕獲された狸

いただく命に真正面から向き合わなければならないのが狩猟。赤石さんは狩りという行為に戸惑いや困惑はなかったのだろうか。命に介入する狩猟の覚悟の必要性を迫られたエピソードを語ってくれた。

「僕が初めて狩猟をしたのは大学二年のとき。何しろ初めての狩りで何も掛からないだろうと高をくくっていたのだけど、付けた*箱罠にハクビシンが掛かっちゃって。

*箱罠:野生動物を捕獲する際に用いる箱状の罠

みんなで一生懸命殺そうとしたけれど、すばしっこくて、一撃で致命傷を与えることができなかった。命をいただくという覚悟が全然足りない状態で狩猟に出かけてしまったのだということを痛感した。

そのハクビシンの皮は、戒めとして、なめして部室に飾ってある。この初めての狩猟以来、戴く命ということを意識して狩猟に望んでいるよ。

最近の出来事で印象的だったのは、アライグマの狩猟。ここ数年の間に、アライグマは急増していて、しかも手先が器用な動物だから厄介。そのため掛ける罠も特殊でアライグマ専用の罠がある。その罠を仕掛けたら、標的では全くなかった狸が引っかかってしまったこともあった。
本来なら介入されるべきでない動物の命に関わってしまった、その責任を感じた」

さっきまで生きていた動物を撃ち、さばき、食べる。食べる命の最初から最後までを見届ける。狩猟の醍醐味ではあるが、その分の覚悟を突き付けられる場面は多いのだ。

ジビエの先にある農村と都会の関係性と課題

写真提供:赤石さん 狩り部合宿での鹿鍋

「中山間地域では過疎化や産業飲み発達など課題が多いけれど、地域の人も自分たちが持つ資源の魅力に気が付いていない人が多い。狩猟をできても、その資源の活用やマーケティング法を知らない人は多くて。それに、中山間地域に無関心な都会の消費者も多い。

最近はジビエブームで、食べる意味での狩猟への注目度は高い。でも狩猟におけるジビエの需要の意義は、廃棄されてしまう鳥獣の有効活用にあるから、よりおいしいジビエを求めて鹿を養殖しようって話になると、課題の本質が見えなくなってしまう。

都会の人の消費者意識を高めて、狩猟や農村の魅力を知ってもらう、これが大切だと思うな」

赤石さんは現在、大学院で発展途上国の経済体制について研究している。先進国の需要に応えようとする発展途上国の経済体制と、課題に無自覚な先進国の消費者の関係は、都市と農村の消費と生産のつながりの薄さに似ていると語ってくれた。

ジビエの魅力には、美味しさのほかに、農村の資源活用と鳥獣の有効活用も含まれている。このことに意識を向けてジビエを楽しんでほしい。食に受動的ではなく能動的に向き合う姿勢が大切なのだ。



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