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天使と僕ら

真夜中の空は一面の曇り空

 でも星が透けていて、すごく可憐で。
 明日も同じ空が欲しいと、無邪気な天使だった僕は願っているような気がする。君もきっとそうだよね。

何かを持つことは、体を汚すこと。
天使に背負わせてはいけない。
何かを慮ることは、心を汚すこと。
誰かを想うときの君はそう。

 人の姿は、向こう何十年か捨てられないみたい。そう悟っているから、世の中の道理ってやつにも随分と折り合いをつけるようになった。
 哀しいことに、これは自分や君を守るためと言い聞かせつつも、大事な記憶を遠ざける呪文のろいぶみそのものだと薄々知っている。

 「大したことは無いかな」って言葉同士の退屈な会話が、僕には重たく響くんだな。嬉しいことも、悲しいことも、大粒の雪となって僕らを湿らせた。
 寒がりな君は僕の手をぎゅっと握って隠れていたけど、僕らの4月が嘘みたいに暖かな風を届けるとき、君は少し懐かしむのだろう。
 1月は行って、2月は逃げて、3月は去った。それは、散々引き延ばした近世の時代でも同じことだ。あるいは、一冊のアルバムでも。

 お互いが天使の姿で出会って、一緒に手を振る君のような相手は、何人といない。
 共犯って言葉のくすぐったさを撫でながら、僕らは好きとか、嫌いとか、そんな茨の鎖を引き裂いて、いつしか扉を開けていた。

 向こうは打ちっぱなしの冷たい一部屋と知った今日、だけどひとまず祝おうか。祝いたいし、祝わなければいけないよね。
 お別れには万歳三唱。これもまた、仕方のない道理だ。

 一面の曇り空には星が透けていて、すごく可憐で。
 写真を撮るよりも、ありえない繰り返しを願ったふりで手をふろう。天使の目印になったらいいよね。

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