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『朽ちる紫陽花』

夏が腐らせて、秋が乾かして、冬が冷ます。春は何をしてくれたっけ…もう忘れかけている。朝から戸口を叩く「決して豪雨ではない」梅雨の雨が流してしまったんだ。
おとなになる。それが自分で握るのではなくて、身に降りかかるものだと知った。梅雨のない北国から大阪に越して、悪かったことか、良いことかもしれなかった。

悪いとか良いとかは実際、僕の勝手だからよいのです。午前九時の有線ぐらい、ピントがずれてて、くだらない、ですが、「きっと梅雨の始まりが終わりで、終わりが始まりなんだ」と思ってしまうのは絶対、疑いようなくあなたの仕業です。
紫陽花の綺麗さが穢されてゆくしくみ。季節の重複とグラデーション。人と重なって、それから人が離れていったこと。六腑を侵す霧気に息は白み、実らない少しの期待が退いてくれない。

朝から晴れていたら気分も晴れて、雨だと舌打ちをするぐらいのものが、夕方から空が明らむ今日みたいな日が一番堪えます。父や母や、故郷や犬と同じぐらい、ずっと見つめ合った太陽は結局、何もしてくれないじゃないか。嘲笑いすらしてくれない、僕だけのものじゃなしに。
芯まで侵されつくして、体温を欲していた六腑を太陽が温める。身勝手だ。身勝手な本当に身勝手な。身勝手!どっちが?ぜんぶ。八十億分の一だって僕もあなたも身代わりになれずに、太陽不在の梅雨の時間を晴らすのもまた太陽。あなたじゃない。僕ですらない。
人間様もまた、葉緑体がないだけの結局、地べたに張り付いた葦だ。降りかかる日光を待つだけの。せいぜい考えやがれ、太陽のバカヤロー!

照らされた紫陽花は褐色に朽ちていく。始まらない終わりが始まる色。

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