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ノスタルジー航空 ITM⇛CTS

 飛行機の意地悪。
 大地の押し合いへし合いに身をよじって、僕らの列島は途中で曲がったのに、お構いなく「当機は只今佐渡島上空〜」なんて言ってる。
 3776メートルの名峰だって、3000万人の暮らしだって、そんなちっぽけな数字を覆い隠してしまう、2人だけの思い出だって。
 全部、大急ぎの直行便にとっては、時代遅れなのだ。
 せめて、バカデカい街がそこにあるって確認できるだけの、明かり一欠片ひとかけでいいから見せてほしい。果たして君が、天使の真似っ子をする人間か、人間の亡骸を借りてきた天使なのか、確かめたかった。だけ。

 北陸の街は、見つめるうちに萎んでゆきそうだ。今夜だけでいいから、米どころじゃなくて人だかりを、なんて。
 君が飛んできて教えてあげないって、心の底から酷い仕打ちをしてくれたらあるいは、それでよかった。あいにく電波の効かない便で、今日に限って新潟の綺麗に切り取られた街が薄く光ってる。
 墜落とか乗っ取りとか、酷いことは言わないから、僕だけ飛び出してしまいたい。そうして1時間か永遠なら、永遠がほしい。永遠と一瞬はコッソリ手を繋いでるから、君が不思議そうな顔でついてきてくれる気がする。

 長すぎる有限を半分に割って、飛行機は間もなく下降を始めるみたい。あと少しで宇宙だったんだよ。もう、奪われたって気分にするのは、たくさんだよ。

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