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読むナビDJ 6:グスタボ・サンタオラージャ - 過去記事アーカイブ

この文章はDrillSpin(現在公開停止中)というウェブサイトの企画連載「読むナビDJ」に書いた原稿(2013年6月20日公開)を転載したものです。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。

今、一番勢いのある映画音楽作家といえば、間違いなく彼の名が挙がるのではないでしょうか。それは、世界的なミュージシャンでありプロデューサーのグスタボ・サンタオラージャ。

1951年にアルゼンチンのブエノスアイレス近郊の町で生まれたサンタオラージャは、60年代後半のアルゼンチン・ロック黎明期から活躍。その後米国に渡ってからは、ロック・エン・エスパニョール(スペイン語ロック)のプロデューサーとして売れっ子となり、フアネスやカフェ・タクーバなどをスターに仕立て上げました。また、バホフォンドというタンゴとエレクトロニカをミックスしたグループのリーダーとしても世界中をツアーで回っています。

サンタオラージャが映画音楽の世界に入ったきっかけは、チャランゴというアンデスの弦楽器を使ったインストのソロ・アルバム『ロンロコ』(1998年)。本作が映画『インサイダー』(1999年)やCMなどで使用されたことで注目を浴びました。2005年と2006年には、2年連続でアカデミー作曲賞を受賞したこともあり、一躍トップクラスの映画音楽作家としての地位を築きました。

この夏は、ジャック・ケルアックのビート文学を映画化した『オン・ザ・ロード』が日本公開されるので、彼のアルゼンチンの音楽を意識しつつグローバルな魅力にあふれた独特の音楽世界があらためて評価されることでしょう。

『アモーレス・ペロス』(2000年)

サンタオラージャの出世作であると同時に、メキシコを代表する監督となったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥのデビュー作。メキシコシティのダークな一面を描いた秀作ですが、音楽もメインはメキシコのロックやヒップ・ホップがふんだんに使われています。サンタオラージャのスコアは、哀愁を帯びたギターの音色とチャランゴのトレモロが効いた印象的なサウンドで、映像に深みを与えていました。

『11'09''01/セプテンバー11』(2002年)

2001年のアメリカ同時多発テロをテーマにしたオムニバス映画で、メキシコからはイニャリトゥ監督が抜擢。同時にサンタオラージャも音楽を手がけることになりました。11分間の映像の中で、緊張感に満ちたナレーションや爆発音にミックスされるチャランゴのトレモロが見事。後半に出てくるストリングスはクロノス・クァルテットで、彼らのアルバム『ヌエボ』(2002年)をサンタオラージャがプロデュースしています。

『21グラム』(2003年)

イニャリトゥ監督と組んで、初めてハリウッドに進出した記念すべき作品。心臓ドナーをモチーフにした群像劇で、ショーン・ペンの哀しみに満ちた演技が印象的でした。本作でも、チャランゴやバンドネオンといったアルゼンチン特有の楽器を使い、ミニマムな編成でさりげない音響空間を演出しています。このエンディングテーマは、『11'09''01/セプテンバー11』に続いて、クロノス・クァルテットとコラボレートしました。

『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004年)

ブラジルのウォルター・サレス監督が、チェ・ゲバラの青春時代に敢行したラテンアメリカ・バイク旅を映画化した作品。ガエル・ガルシア・ベルナルが主役を演じ、日本でもヒットしました。この「De Ushuaia A La Quiaca」という曲は、もともとサンタオラージャのアルバム『ロンロコ』に収められていたものですが、まるでこの映画のために書き下ろしたかのようなはまり具合でした。

『ブロークバック・マウンテン』(2005年)

アン・リー監督が、ワイオミング州の大自然を舞台に男同士の愛を描いて話題になった映画です。この作品でサンタオラージャは、初のアカデミー音楽賞を受賞します。ウィリー・ネルソンやエミルー・ハリスといったカントリー・ポップのシンガーをプロデュースしたことも特筆すべきですが、劇伴のインストもアメリカン・テイストでこれまでとは一味違う作風になりました。ここでは貴重なスタジオライヴの映像をお楽しみください。

『バベル』(2006年)

イニャリトゥ監督の大ヒット作で、米国、モロッコ、そして日本を舞台に交錯するスケールの大きな物語。サンタオラージャは、単に劇伴を作るという仕事にとどまらず、実際にロケ地に赴き、現地のミュージシャンともセッションを重ねたそうです。この曲は、前半は坂本龍一が96年にジャキス・モレレンバウム等と録音した「美貌の青空」ですが、そこにチャランゴを重ねていきサンタオラージャの世界へ誘います。サンタオラージャは、本作で2年連続オスカー受賞。

『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』(2008年)

“タンゴ版ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ”というべきドキュメンタリー映画。タンゴの巨匠を一堂に集めてレコーディングし、コンサートを開くまでが描かれますが、その元となったアルバム『Cafe De Los Maestros』(2005年)も含めてサンタオラージャのプロデュース作品。映画には出演するだけでなく、編集や脚本にも関わったようです。実際の音楽はタンゴのスタンダードばかりなので、サントラとは少し意味合いが違いますが、彼の映画史の中では重要作といえます。

『BIUTIFUL ビューティフル』(2010年)

お互いにすっかり無くてならない存在となったイニャリトゥ監督とのコラボレーション。ハビエル・バルデムが末期ガンに冒された孤独な男を演じて話題になりました。サンタオラージャの音楽もこれまでの作風を踏襲しつつも、より空間的な広がりを意識したサウンドを作り上げています。イニャリトゥ監督自身もマリンバを叩いたり、現代音楽の精鋭オスバルド・ゴリホフがアレンジを手がけていることにも要注目。

『オン・ザ・ロード』(2012年)

サンタオラージャの劇場映画作品としては最新作。ジャック・ケルアックの伝説的ビート文学『路上』を映画化したもので、監督は『モーターサイクル・ダイアリーズ』のウォルター・サレス。チャーリー・パーカーなどのジャズに混じって、サンタオラージャ特有のメランコリックなサウンドが交錯していきます。『バベル』などに代表されるいわゆるロード・ムーヴィー音楽の集大成といってもいいでしょう。

『The Last of Us』(2013年)

こちらは映画ではなく、プレイステーション3のゲームソフトのために作られたサントラ。日本発売もされますが、主に海外マーケットを視野に入れたアクション大作です。この映像は、サンタオラージャのインタビューやレコーディング風景、コンサートの模様など貴重なシーンが満載なので、彼のクリエイティヴィティを知るには恰好の資料。フル・オーケストラからチャランゴ・ソロまで、サンタオラージャのヴァラエティ豊かな特性がよくわかります。


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