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イカとオランダ人

5年前、私はアムステルダムに、彼氏(現・夫)はナイメーヘン(Nijmegen)に住んでいた頃のお話。

週末通い

アムステルダムからナイメーヘンまでは電車で1時間20分。彼の家までは、バスと電車を乗り継いで、2時間半!

当時、私の住まいは会社の日本人の同僚とのシェアハウス(会社が借主で、家賃を会社に払ったいたので、寮というべき?)で、家族以外のお泊まり禁止というハウスルールがあった。オランダでは珍しい。まぁ、そこは日本人的な節度が取り計らわれたものだろう。そのため、彼はアムステルダムに来ることはなく、毎週末、私は彼の元へ電車とバスを乗り継いで、通っていた。

そもそも彼は、アムステルダムが好きではなかった。街は人で混雑しているし、ナイメーヘンから車で来ると渋滞スポットがいくつかあるし、「都会の人は冷たい」とのこと。地方から見ると東京の人ってそう見えがち、というそれと同じだ。だから、彼にとってはこのハウスルールは好都合だっただろうな。

ある金曜日〜至福のとき〜

ある金曜、いつものように週末のお泊まりセットをあらかじめ用意し、勤務後、その足でナイメーヘンまで向かった。

まず、会社からバスでアムステルダム中央駅へバスで約20分。Intercityという特急電車に乗り込む。ユトレヒトで一度乗り換え、電車に揺られること、計1時間20分。

電車の中は快適だ。日本の新幹線のように、基本的には2座席シートがズラーっと並び、座席によては2席×2席の対面タイプもある、という形。体の大きな(特に足が長い!)オランダ人に合わせた設計になっているおかげか、THE日本人平均体型な私にとってはゆったりとできるし、隣に人が座っても肩や足が当たったりすることはない。無料wifiもあるが、whatsappでメッセージを送るくらいしかできない弱さというのが玉に瑕。

彼の家に着くのはだいたい午後7時半ころ。道中どうしても小腹が空いてしまう。彼がせっかく夕食を用意してくれているので、あまり間食をしすぎてはいけない。

その日は、干しイカを持参していた。干しイカは優秀だ。噛めば噛むほど味わいが出てくるし、噛むことで満腹中枢が刺激される。しかし、オランダで干しイカを販売しているところを私は知らない。その干しイカは一時帰国時に自分への土産として購入していた貴重なものだった。そんな貴重な干しイカを、何ともない、いつもの金曜日に開けてしまうという贅沢・・・。はぁ、至福〜。

臭う?!バス停

ナイメーヘン中央駅に到着。ここからまたバスで15分の道のりだ。

停留所でバスを待つ間、引き続き干しイカを頬張る。隣には小綺麗なマダムが座っている。歳の頃は60代半ばといったところか。

マダムが不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。その視線に気づいた私が軽く会釈をしたのを皮切りに、彼女が「What’s that?(それ、何を食べてるの?)」と聞いてきた。

今思えば、干しイカの匂いに迷惑して目をやっていたのかもしれない。前述の通りオランダには干しイカは売っていない。タコやイカなどを食べる習慣がないのだ。スーパーにはもちろん売ってないので、魚屋さんに行かないと手に入らない。イカを食べないオランダ人は「ちょっと気持ち悪い...(おぇ)」とすら思っている人は多いのではないだろうか。

マダム、実食!

「This is dried squid!(乾燥させたイカだよ)」と笑顔で答える私。

彼に会える嬉しさ、1週間仕事を頑張った週末の解放感、貴重なスルメを何ともない日に食べている私自身への高揚感(?!)が私を謎の提案に導いた。

私は「日本で買ってきたんだ。食べてみる?」と彼女の手元に袋を差し出した。

少し面食らった表情のマダム。やや戸惑いながら、私の勢いに乗じて袋に手を伸ばす。

マダム、生まれて初めての干しイカを実食!


「・・・Well, it tastes very unique.(ユ、ユニークな味ね)」


お口に合わなかった模様。


続けて、マダム「で、これ何?」

いや、さっき言ったやん笑

「Dried squid(乾燥させたイカ)だよ」と私。

この会話を見かねて、マダムの向こう側に座っていた少年がオランダ語でマダムに助け舟を出した。「タコだってさ」と。

まだ、オランダ語を習っていなかった私だが、オランダ語もタコは英語と同じOctopusなので、聞き逃さなかった。

「いや、ちがーーーう!タコじゃない。イカだってば」。

キョトンとする少年。「何が違うの」と顔に書いてある。

え、この人たち、タコとイカは同じだと思ってるの?!全然違う生物やん!説明しなきゃ。えーーーっと・・・

私「イカは足が10本!タコは足が8本!」

マダム・少年「・・・」

説明の方向、間違った!全然伝わってない!!

私「・・・・・・味も違うしさぁ。茹でたときの色も違うんだよ?!」

マダム・少年「・・・ふーん」

オランダ人にとって、イカもタコもどっちでもいいのだろう。彼らにとっての真実は、干したソレはイマイチだということだ。


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