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山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

『枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫•菌•動物と森林生態系』 

 深澤 遊著 築地書館 2023年

 前半は著者の森林生態学者というよりは生き物大好き少年の生態が披露される。クマの気配におびえながら〝森のくまさん〟を歌ったり、〝うるうるする〟コケに顔を埋めたり、つい探してしまう何か、つい拾ってしまう何かの連続。スケッチしているとネズミが脇を走り抜けていくこともある。
 森の中にいると、いつ何に出会うかわからないときめきと、土や菌の香りに包まれるやすらぎのダブル効果を体感する。そうしているうちに気持ち良くなって眠ってしまい、そのまま死体のように昼寝してしまうというのも、森に親しむ者にはよくわかる状態だ。

 フィールドワークで観察し、そこから実に様々な推理や予測を立て、それを元に実験を試み、その結果を判断する。微生物を相手にするだけに、繊細な作業の連続である。しかし著者の溢れ出るような発想と行動力はこの本を一貫して流れ続け、圧倒されるような勢いがある。
 そんな中でも興味をそそられたのは、知能の定義を「問題解決できる能力」と捉え直すことと、生物のDNA配列をビッグデータとして研究する「生物情報学」の存在だった。
 微生物研究の今が、驚くほど人の世界の様相と似ている。今やもう人は動物と決定的に異なる高等生物だと主張する人はいないだろう。進化の過程で蓄積された細胞記憶によって、ヒトも別の生き物の〝環世界〟を経験できるはず。変形菌の動画を見て感情移入してしまう著者なんて、菌類の環世界を生きているではないか。

 それと、もうひとつ重要なのは枯木が炭素の蓄積に果たしている役割についてだ。
二酸化炭素排出ゼロを目指すための方策について、森の中からの提言に耳を傾けていきたい。
 著者は現在宮城県の森の中に住まいし、東北大学で教鞭を執る。枯れたアカマツの多い山形市の千歳山でも調査したことがあるという。どこぞの森で倒れたように昼寝する人に出会ったら、彼かもしれませんね。

朽ち木で見つけた変形菌標本たち

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