あらしだうたこ

本の世界と森の世界を行き来して繰り返すダイアローグ。 変形菌探し、湧き水探訪、鳥の羽根…

あらしだうたこ

本の世界と森の世界を行き来して繰り返すダイアローグ。 変形菌探し、湧き水探訪、鳥の羽根拾い屋。 姥神に心奪われ、衣渡す前にいろいろ話すことあり。 1973年生まれ。坂口安吾と故郷は同じ。 風に吹かれた吹き溜まりで胞子が発芽中。 もっと地を這いたい。

最近の記事

山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

『枯木ワンダーランド 枯死木がつなぐ虫•菌•動物と森林生態系』   深澤 遊著 築地書館 2023年  前半は著者の森林生態学者というよりは生き物大好き少年の生態が披露される。クマの気配におびえながら〝森のくまさん〟を歌ったり、〝うるうるする〟コケに顔を埋めたり、つい探してしまう何か、つい拾ってしまう何かの連続。スケッチしているとネズミが脇を走り抜けていくこともある。  森の中にいると、いつ何に出会うかわからないときめきと、土や菌の香りに包まれるやすらぎのダブル効果を体感

    • 山形の姥神をめぐる冒険 #27

      【姥石】 寒河江市元町 2024年2月  今回はやや異色の姥神の登場である。正確には姥石と呼ばれている自然石である。ここは知る人ぞ知る寒河江市の巨石文化遺蹟なのだ。公園には大小の岩がぐるりと円を成していて、問題の姥石はその隅に置かれていた。  石をよく見ると、窪みに結晶化した鉱物があるのがわかる。日の光にあちこちがきらめいて、ぐにゃにゃの溶岩を固めたような見た目とは裏腹にすべすべした肌触りだ。 石の全体がこういう物体の塊で、確かに霊力が宿っているような迫力がある。呪いも祝

      • 山形の姥神をめぐる冒険 #26

        【南龍山不動尊】 山形市平清水  2024年2月  山形市の中心部に千歳山という姿のよい山がある。その麓の平清水ではいくつもの窯元や草木染めの店、日本酒のお店などがあり、散策するのに心地良い所だ。その平清水の奥の奥、薄暗い杉木立ちの道を行くと不意に鳥居と石像群が現れる。鳥居をくぐり、沢を渡る。崖をぐるりと回り込むと石碑があり、古い霊場だということがわかる。  苔むした倒木を乗り越え、沢に足を濡らしながらついに出会ってしまった。姥神に。 不動尊と姥のセット組だ。このパターンは

        • 山形の姥神をめぐる冒険 #24

          【大日如来堂】 山形市山寺馬形  2024年1月  山形の名所、山寺を背に堂々と座るのは、この地区の守り神的な姥神だ。山寺の境内にも姥堂はあるが、それとは趣きも役割も異なる存在だ。  がっしりとした身体に団子鼻、大きな顔。  村を守る姥神にふさわしい造形だ。  このとなりに首だけの姥神と思われる石像が置かれている。この二人が並んでいる脇を通らないとこの先のお堂にお参りできない。ダブルウバだ。小さい子なら怖くて通れないかもしれない。

        山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #8

          山形の姥神をめぐる冒険  #23

          【向川寺】大石田町黒滝  2023年12月  大変な急坂である。深く積もった濡れ落ち葉にみぞれ混じりの雪が降ってきて、面白いように滑りながら這うように登る。途中で杉の倒木が道を塞いでいたので、乗り越えようと丸太を抱きかかえたところで吹き出した。これじゃ、まるでサスケだ。 私を見つけられるかな、と姥神に試されているのかも。  寺の境内を歩き回ったがどうしても見つけられず、あたりをつけた山道を登ることにしたのだった。尚も滑りつつ登ってゆくと、唐突に現れた。 ポーンとランプが光る。

          山形の姥神をめぐる冒険  #23

          山形の姥神をめぐる冒険  #22

          【愛宕神社】 村山市富並 2023年12月  山形県の北の方に向かうと最上川の存在感が急に増してくる。大きく蛇行した川はざぶざぶと勢いよく流れていて、何度も最上川を渡る橋が現れる。そんな橋のやや手前にこの神社はあった。鳥居の向こうは山の上まで続く細い石段が続いている。姥神はその昇り口に真っ赤な衣を着てニカッと微笑んでいた。今まで見たどの姥神よりも美人だ。洗練された顔の表情だけでなく、立てた膝の衣の襞なども雅と言いたいような気品が感じられる。 石段を昇っていくとお堂があり、〝

          山形の姥神をめぐる冒険  #22

          山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #7

          『超人 ナイチンゲール』 栗原康 医学書院 2023.11  すでに多くの書評が出たタイトルなので、その概要や観点を繰り返しても意味はないだろう。私がこの本を取り上げるのは、ここで言われている「霊性(スピリチュアリティ)」「神秘主義」について思い凝らせてみたかったからである。ケアや共鳴、協働について考えてみたかったからである。  例えば本文中の「おまえはおまえの神を踊っているか」(P63)という一文。この言葉で著者は何を伝えようとしているのか。  私たちの生活は労

          山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #7

          山形の姥神をめぐる冒険 #21

          【大聖院】 ⁑アーバン・ウバ⁑ 山形市錦町 2023年12月  山形市の市街地から路地を一本入ると、目立たないお堂がある。そのお堂の隅にちょこんと座っている姥神を見つけた。何度も通ったことのある道だが、今まで全く気がつかなかった。 なんとここの姥神はにっこり微笑んでいる! ああ、やっぱり笑顔がいい、癒される。 と思ってよく見るとどうも舌は出しているようで、伏目がちににっこり舌を出すのはかなり難しいと自分でやってみて悟った。まあいいか、眉間の皺がないのがいい。山形城跡も近

          山形の姥神をめぐる冒険 #21

          山形の姥神をめぐる冒険 #25

          千歳山大日堂参道  山形市平清水 2024年2月  姥神が座る台座には、「帝大入学記念 昭和十六年四月 高橋豊吉」と刻まれている。その年、1941年は12月に日本の真珠湾攻撃によって本格的にアメリカとの戦争が始まった年だ。そんな時に帝国大学に入学した地域の秀才の名を刻んだ姥神像。入学記念に姥神とはどういう意味だろう? 疑問は尽きないが、ともかくもここに姥神はいる。  能面の般若に似た顔をしている。ゴツゴツとした頬骨に裂けた口、痩せた身体、寄せられた眉根のしわ。般若は鬼女だか

          山形の姥神をめぐる冒険 #25

          山形の姥神をめぐる冒険 #20

          【最上山 風立寺】 山形市高瀬 2023年12月  立石寺のある山寺もほど近いこの寺は西暦856年開創というから、山形でも有数の古刹だ。姥神像はこの寺の入り口、仁王像の脇に座っている。参道からのぞくと十六羅漢に六地蔵、湯殿山や観音信仰の板塀など、種々様々な石像がぎっしりと並んでいるのが見える。十六羅漢など、薄暗い境内で見ればギョッとする威容である。いや、異様というか。  山門には赤い光線を放つ監視カメラも設置されている。 仏像の盗難も少なくないというから、防止策なのだろう。

          山形の姥神をめぐる冒険 #20

          山形の姥神をめぐる冒険  読書編 #6

          『中国の死神』 大谷 亨  青弓社 2023年   中国には「無常」と呼ばれる死神がいる。寿命が尽きかけた人の所へ来てその魂を捉えにやってくるのだという。その姿は白い服を着て高帽子をかぶり、長髪で長い舌を吐き出している。ある日その無常の姿を中国の新聞で見つけた著者は「ビビビッ」と来て、以来中国各地で無常の「採集」「観察」「考察」に邁進することになる。 それはそのまま、奪衣婆にビビビッと来てしまった自分の姿と重なり、読みながら吹き出した笑いはほぼ、「めちゃわかる!」という同業

          山形の姥神をめぐる冒険  読書編 #6

          山形の姥神をめぐる冒険 #19

          【水方不動尊 参道】山形市  2023年11月  姥神めぐりを敢行するにあたり、貴重な資料になっている鹿間廣治氏の『奪衣婆 山形のうば神』によれば、「ここにお参りに来た人の何人に一人が奪衣婆がいることに気づくのだろうか」と、この不動尊の姥神の場所がわかりにくいことを伝えている。  不動尊に着いたのは、秋の陽も陰り始めた頃だった。ゲームめいた変な闘志がわく。 姥神、きっと見つけてみせる!  今までめぐってきた姥神のいる場所のパターンを思い返し、推理をしたがやはり難航した。参

          山形の姥神をめぐる冒険 #19

          山形の姥神をめぐる冒険 #18

          【古峯神社境内】 山形市谷柏 2023年11月  ここは近年大規模に山野を切り拓いて造成された新興住宅地、蔵王みはらしの丘にほど近い山の中である。新興住宅地と高速道路に切り取られて残っているような古の神社。さすがに古代の神々の地を更地にするほどの勇気はないだろう。「バチが当たる」からである。  山門から山道を登り、しばらく行くと落ち葉が重なり積もった足元にツチグリの大群を見つけた。宇宙人なのか妖怪なのか、不時着したUFOなのか。その妖しさにしばし足を止める。 どこに姥神は

          山形の姥神をめぐる冒険 #18

          山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #5

          『Savoir & Faire 土』 岩波書店 2023年刊  「土」を取り巻く技術やアート、自然環境などを紹介・展望する本書は、フランスのエルメス財団が主催する社会貢献プログラムとして編まれたものだ。華麗な装飾が施されたフランス人研究者の言葉と、実直で滋味のある日本の職人の言葉が各章で綴られていく。それらの言葉はそのままヨーロッパとアジアの土を象徴するようでいて、それぞれの歴史や食べ物や住まいにつながっている。  曲がりくねった黄土色のやきものは地中海の風のよう。太古の時

          山形の姥神をめぐる冒険 読書編 #5

          山形の姥神をめぐる冒険 #17

          【蔵王坊平 お清水の森】 2023年11月  今は姥神めぐりがメインだが、それまでは湧水ハンターと称して山形各地の湧水を訪ねて来た。ここ坊平のお清水の森も登山道の登り口に水が湧き出ている。何度も来ている所なのに、この日は道を間違えた。蔵王温泉から大回りして森に着いた頃にはすっかり機嫌が悪くなっていた。  登山道を少し登ると斜面に石仏群が現れる。そこから少し外れた岩盤に姥神はいた。 両膝を立てているように見えるが左手にあるのは死者から剥ぎ取った衣だ。 ひと目見て、 「三途の川で

          山形の姥神をめぐる冒険 #17

          山形の姥神をめぐる冒険 #16

          【八聖山金山神社】 西川町水沢 2023年10月  参道には多くの石仏が並んでいる。この姥神像もどういう順序なのかは知らないが、同じ列に並んでいた。小さくて素朴な姿だが、顔の表情は削り取られているのでわからない。ここは湯殿山、月山がすぐそこにある出羽の山岳信仰のお膝元。神仏毀釈の嵐も苛烈だったのだろう。すぐ近くの湯殿山神社の境内にある石仏は、ほとんどが首がないまま打ち捨てられている。  ちょこんと座った姿は和菓子のような可愛らしさだが、裏寂れた境内にいると寂寥感が漂うのだった

          山形の姥神をめぐる冒険 #16