【調剤室の化学】第2話 溶ける軟膏

蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、ニキビに火傷。

皮膚の疾患は目に見えやすい分、身近なものだと思います。

そしてこうした疾患に使われる軟膏やクリームといった外用剤。

今日はその外用剤の化学。

混合される外用剤

肌荒れやかゆみなどで病院を受診して薬局に行くと、チューブの既製品の軟膏ではなく、プラスチックの容器(軟膏壺という)に入ったものを手渡される場合があります。(↓こういう容器です)

医師が出す処方箋には2種類以上の軟膏やクリーム剤を混合する指示が記載されていることもあります。

例えばアトピー性皮膚炎は炎症が出てかゆみが出るだけでなく、肌のバリアがボロボロになっているので乾燥してより悪化してしまいます。

そこで炎症を抑える薬と保湿剤を混ぜて治療するのです。

軟膏が溶ける・・・?

こうした混合された外用剤。なんと、組み合わせによっては溶けてしまうことがあるんです。

「溶ける」という表現をしましたが、水を含んだような性状の変化が見られることがあります。そう、まさにアイスが溶けるかのように。

もしかしたら、昔もらった軟膏を忘れた頃に取り出してみたら水っぽくなっていた、みたいな経験のある方もいらっしゃるかもしれません。

ではなぜこのようなことが起きるのでしょうか。

その答えは外用剤の「基剤」にあります。

有効成分よりも重要な基剤

軟膏と聞くとベタベタしたのを思い浮かべるとおもいますが、実は溶液とほぼ同じものです。

溶液とは溶媒に溶質が溶解しているものです。(意味不明ですね)
わからない人のために「塩水」を例に説明すると、
・溶けているもの(ここでは塩)を溶質
・溶かしているもの(ここでは水)を溶媒といいます。

要するにここでわかってほしいのは「基剤」とは軟膏にとっての溶媒であるということ。

これには水っぽいものと油っぽいものがあります。

水と油と聞くとなんとなく混ざり合わないだろうな、というのが予想できることでしょう。

そう、基剤が合わない組み合わせだと、混合したときに当然分離してしまうのです。

また、しばらくは大丈夫でも、週単位、月単位でゆっくりと分離をする組み合わせもあったりするのです。

組み合わせは無限大

先発医薬品と後発医薬品(ジェネリック医薬品のこと)で混合可否が変わるということもあり得ます。

保険のルールでは、有効成分が同じで、同じ製剤に分類される薬は「同じ薬」として代替が可能です。

例えばアトピー性皮膚炎の例で炎症止めと保湿剤を混ぜるということを言いました。

炎症止めAの処方が来た時には、先発品のAだけではなく、同じ薬に該当しているB、Cという後発品に変えることができます。

しかし、A,B,Cはそれぞれ違う会社が作ったものであり、基剤の成分も厳密には異なります(※有効成分は同じ)。

単体で用いる場合、効果に差が出ることはほぼありませんが、保湿剤と混合したときに、上手く混ざるものと混ざらないものがあるのです。

これらの組み合わせを全部知っている人は、実は医師でも薬剤師でもまずいないと思います。

文献にもなかなか載っていない組み合わせもあって、処方通りに混合してみたら混ざらない・・・なんてことも起こり得ます。

調べてもわからない組み合わせは実験的に混ぜてみる必要がありそうです。

一度、「フランカルボン酸モメタゾン軟膏」という炎症止めと「ヘパリン類似物質油性クリーム」という保湿剤を実験的に混合した時、みるみる内に水が分離してきたこともありました。
知らずに処方されていたら飛んでもないクレームになっていたかもしれません。




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